出版社内容情報
本書は、ミューオンを利用した素粒子物理学、特に実験研究に焦点を当てた初の日本語の解説書である。理工系の大学生・大学院生、さらには若手研究者を対象に、素粒子やミューオンの基礎概念と歴史から最新の研究動向までを、体系的かつ平易に解説する。
素粒子物理学の標準理論は多大な成功を収めてきたが、ニュートリノ質量や暗黒物質など、いまだ未解決の謎が多く残されている。その解明には新たな物理現象の探索が不可欠であり、その有力な手段の一つがミューオン研究である。電子の約207倍の質量と比較的長い寿命をもつミューオンは、超精密測定や稀崩壊探索などに適しており、近年の加速器技術の進展により高強度・高輝度ビームが実現し、この分野は急速に発展している。
ミューオン素粒子物理学実験は、大型衝突型加速器とは異なり、小規模な装置で高精度の測定が可能であり、他の手法では得られない独自の知見を提供する。本書では、実験の背景、進展、課題に加え、ビーム源開発や将来の構想といった技術的側面までを包括的に解説し、分野全体の相互関連性を示す。
基礎から応用までを幅広く網羅する本書は、ミューオン素粒子物理学の全体像を俯瞰したい読者にとって、格好の入門書兼リファレンスである。
【目次】
第1章 はじめに:素粒子とミューオン
1.1 なぜ素粒子物理学を探求するか
1.2 素粒子とは
1.3 素粒子物理学の直面する課題
1.4 ミューオンとは
1.5 ミューオンに関連する素粒子物理学の歴史
第2章 素粒子物理学の標準理論とミューオン
2.1 素粒子物理学の基本的知識
2.2 素粒子物理学の標準理論
2.3 標準理論でのミューオンの相互作用
2.4 レプトン混合
2.5 クォーク混合
2.6 ニュートリノの質量
第3章 ミューオンの崩壊
3.1 ミューオン崩壊の物理
3.2 ミューオン崩壊の精密測定実験
第4章 新しい物理の探求とミューオン
4.1 有効場理論による新物理の考察
4.2 理論モデルによる新物理の考察
第5章 ミューオンの荷電レプトンフレーバー非保存
5.1 標準理論での荷電レプトンフレーバー非保存
5.2 ミューオンの荷電レプトンフレーバー非保存の物理
5.3 理論モデルによるCLFVの考察
5.4 μ+→e+γ 崩壊
5.5 μ+→e+e+e- 崩壊
5.6 μ-N→e-N 転換過程
5.7 μ→eγγ 崩壊
5.8 その他のミューオンを含むCLFV過程
5.9 ミューオンCLFV過程の相互作用
第6章 ミューオンとレプトン数非保存
6.1 レプトン数非保存
6.2 μ-N→e+N′ 転換過程
6.3 μ-N→μ+N′ 転換過程
第7章 ミューオンとエキゾチック粒子
7.1 軽いエキゾチック粒子を伴うミューオン崩壊
7.2 ミューオン散乱によるダークセクター粒子の探索
第8章 ミューオンの磁気双極子モーメント
8.1 ミューオンの異常磁気モーメント
8.2 ミューオンの異常磁気モーメントの測定実験
第9章 ミューオンの電気双極子モーメント
9.1 ミューオンの電気双極子モーメント
9.2 ミューオンの電気双極子モーメントの探索実験
第10章 ミューオニウムの物理
10.1 ミューオニウムの基底状態の超微細構造
10.2 ミューオニウムの1S-2S遷移のスぺクトロスコピー
10.3 ミューオニウム反ミューオニウム転換
第11章 ミューオン原子の物理
11.1 ミューオン原子核捕獲
11.2 ミューオン原子軌道上でのミューオン崩壊
11.3 ミューオン原子を用いた陽子の電荷半径測定
第12章 ミューオンビーム源
12.1 加速器によるミューオンの生成
12.2 高強度の崩壊ミューオンビーム源
12.3 パイオン捕獲とミューオン輸送の実証:MuSIC施設
12.4 位相空間回転と高輝度化
12.5 超低速ミューオン源



