出版社内容情報
21世紀はカーボンの時代といわれている。シリコンにかわる半導体材料として,耐熱性のある強度材料として,炭素繊維(カーボンファイバー)など炭素材料は最先端科学や産業の中で大きな役割を担ってきた。さらに,自然界に存在せず人工的に合成され,炭素原子だけでできた,大きさが1億分の1 m(1ナノメートル)の物質,ナノカーボンは,1985年から物理学,化学,工学,材料科学,生物学,など非常に広い分野にまたがって注目を集め,現在世界中で1000億円規模の莫大な国家予算や企業予算が研究予算として投下され研究されている。ナノカーボンとは何か,どういう点が注目を集めているのか,どういうことが次世代産業に期待されているのか,どんな読者でも本書だけで一通り理解することができる。ナノテクノロジーの主流というべきナノカーボンの世界を,単に啓蒙書,純粋な専門書でなく,最前線の研究者が現場から書いた本は類書がない。
ナノカーボンには,球状のフラーレン,円筒状のナノチューブ,平面状のグラフェンと,0次元,1次元,2次元の物質が代表的である。本書は,この3つの物質を追求してきた著者が,幅広い分野の若い世代の読者に,研究者一人の視点から3つの物質に共通の言葉と高校から大学初年度程度の式を用いて,ナノカーボンの歴史と今日の最前線,そして将来の課題をコンパクトにまとめたものである。ハンドブック的な知識だけでなく,ストーリ―としてナノカーボンを理解できるよう執筆している。
本書の少なくとも半分は,一般の読者や高校生でもわかるように,式や難しい言葉を一切使わずに解説した。一方,本書の残り半分は最前線の知識を正確に伝えるために,専門的なこともすべて解説した。その解説をするために,必要な専門用語の説明を本文以上の量の脚注で説明した。ナノカーボン研究者・大学院生がまず最初に読み,携帯する副読本としても最適である。本書を読み進めるにあたって,各章のレベルは★☆のマークで示した。とくに☆の章には大学で使う数式や知識が必要であるので,読み飛ばしてもらっても影響がないよう構成に配慮している。具体的には本書の読み方をご参照いただきたい。
本書には,若い研究者へのメッセージも込められている。大学で何の研究をしたいか,大学で研究をするとは何か,科学の発見とは何か,どうやって研究者になるか,ぼんやりわかっていることを,ずばり現場の研究者が語りかける。
この内容は,ほかの分野の研究に着手する若い研究者も,頭のどこかに残しておいて決して損はないことであろう。
本書は,ナノカーボンの広い研究分野を俯瞰した,ナノカーボン研究者のバイブルである。
第1章 ナノカーボンの世界★
1.1 ナノカーボンの世界★
1.1.1 ナノメートルの大きさ★
1.1.2 炭素は地球を循環する★
1.1.3 鉛筆の芯からノーベル賞★
1.1.4 宇宙ヨットからタッチパネルまでの応用★
1.1.5 ナノカーボンの形と機能★
1.1.6 21世紀はカーボンの時代★
1.2 ナノテクの話★
1.2.1 見えない領域は未開拓だった★
1.2.2 小さい方が有利★
1.2.3 ナノテクを実現するには? ★
1.2.4 ナノテクのかなめの半導体★★
1.2.5 もし炭素が半導体になったら? ★
第2章 ナノカーボンの発見★
2.1 C60の発見★
2.1.1 星からのメッセージ★
2.1.2 C60と亀の甲羅の丸い理由が同じ★
2.1.3 オイラーの多面体定理★★
2.1.4 C60発見後の展開★
2.2 カーボンナノチューブの発見★
2.2.1 捨てられた電極★
2.2.2 ナノチューブの丸め方★
2.2.3 ナノチューブ発見後の展開★
2.3 グラフェンの発見★
2.3.1 セロハンテープではがす★★
2.3.2 グラフェン発見の前の研究★
2.3.3 グラフェン発見後の展開★
2.4 まとめ,発見するとは? ★
2.4.1 発見の前に発見者あり:必然的な流れ★
2.4.2 発見の重要性を説明する:プレゼンが重要★
2.4.3 予想外の結果を考える:好奇心が科学★
2.4.4 巨人の肩に乗る★
第3章 ナノカーボンの形★
3.1 グラフェンは六方格子★
3.2 フラーレンの展開図★★
3.3 ナノチューブの展開図★★
3.3.1 ナノチューブの分類★★
3.3.2 並進ベクトル:T★★
3.3.3 対称性ベクトル:R★★★
3.4 多層構造★★
3.4.1 グラフェンのAB積層★★
3.4.2 多層ナノチューブ★★
第4章 ナノカーボンの合成★★
4.1 レーザーアブレーション法,抵抗加熱法,アーク放電法★★
4.1.1 すすからフラーレンの分離,クロマトグラフィー★★
4.2 化学気相成長によるナノチューブ合成★★
4.3 ナノチューブの分離精製法★★★
4.4 アガロースジェルを用いたナノチューブ分離法★★★
4.5 果てしなき挑戦★★★
第5章 ナノカーボンの応用★
5.1 フラーレンの応用★
5.2 ナノチューブの応用★★
5.3 グラフェンの応用★★
5.4 安全性とコスト,課題と展望★★
第6章 ナノカーボンの電子状態★★★
6.1 C60 の分子軌道★★★
6.1.1 原子軌道を用いた分子軌道★★★
6.1.2 広がった軌道を用いる方法☆☆☆
6.2 グラフェンのエネルギーバンド★★★
6.3 単層ナノチューブのエネルギーバンド☆☆☆
6.3.1 ナノチューブの状態密度とファンホーブ特異性
第7章 ディラックコーンの性質☆☆
7.1 ディラックコーン上の電子の質量は0☆☆
7.2 ディラック点のエネルギーギャップは0☆☆
7.3 ディラック電子は反磁性☆☆
7.4 クライン・トンネル効果☆☆
7.5 後方散乱の消失☆☆☆
7.6 ディラックコーン付近の波動関数(擬スピン)☆☆☆
7.7 グラフェンの2つのディラックコーンとバレースピン☆☆
7.8 ナノチューブでのディラックコーン☆☆
第8章 グラフェンとナノチューブのラマン分光☆☆
8.1 ラマン分光とは☆☆
8.2 ナノカーボンのラマン分光☆☆
8.2.1 Gバンド☆☆
8.2.2 Dバンド☆☆
8.2.3 G (2D)バンド☆☆
8.2.4 RBMバンド☆☆
8.3 共鳴ラマン分光☆☆☆
8.3.1 2つの共鳴条件☆☆☆
8.3.2 固体での共鳴ラマン散乱☆☆☆
8.3.3 2重共鳴ラマン散乱☆☆☆
8.4 ラマン分光の使い方☆☆
8.4.1 ナノチューブの構造の決定☆☆
8.4.2 グラフェンのラマン分光☆☆☆
第9章 未来への課題★★
9.1 科学の成果のもつ意味★
9.2 炭素を研究する分野の合流と分化★
9.2.1 炭素材料と化学★
9.2.2 ナノカーボンと固体物理学☆
9.2.3 固体物理から他の分野へ展開☆
9.3 ナノチューブ・グラフェンでのディラック粒子★★★
9.3.1 クライントンネリングの特殊性☆☆
9.3.2 擬スピンを操作する☆☆☆
9.3.3 プラズモニクス☆☆☆
9.4 オールカーボンデバイス(すべて炭素でできた集積回路)
9.5 ナノチューブでできた太陽電池,発光デバイス★★★
9.6 原子層のサンドイッチ★★
9.7 未来に展開する問題★★
9.7.1 宇宙エレベーター★★
9.7.2 すべて炭素でできたパソコン★★
9.7.3 室温での量子現象★★★
目次
第1章 ナノカーボンの世界
第2章 ナノカーボンの発見
第3章 ナノカーボンの形
第4章 ナノカーボンの合成
第5章 ナノカーボンの応用
第6章 ナノカーボンの電子状態
第7章 ディラックコーンの性質
第8章 グラフェンとナノチューブのラマン分光
第9章 未来への課題
著者等紹介
齋藤理一郎[サイトウリイチロウ]
1980年東京大学理学部卒業。1985年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学博士)。東京大学理学部助手。1990年電気通信大学電気通信学部助教授。東京大学理学部客員助教授(1990.8‐1991.9)(併任)。1991年マサチューセッツ工科大学客員研究員(1991.10‐1992.7)(併任)。1993年東京大学大学院理学系研究科客員助教授(1993.7‐1994.3)(併任)。1997年東京大学物性研究所客員助教授(1997.10‐1998.3)(併任)2003年東北大学大学院理学研究科教授(現職)。2009年上海大学客員教授(2009.10‐2012.10)(併任)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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