出版社内容情報
昆虫は小さい体に小さい脳しかもっていないが,障害物を避けて飛んだり,素早く動く餌を捕まえたり,捕食者の襲撃をかわしたりする。昆虫の脳は,複雑な計算処理を行うのではなく,シンプルだが巧妙な仕組みでそれらの課題をこなすと考えられている。本書は,「昆虫そのもの」ではなく「動物の行動の仕組み」に興味を惹かれて研究に取り組む著者が,ハエ,ミツバチ,カマキリなどを例に昆虫の驚異的な行動の仕組みをわかりやすく説明する。さらに,それらの行動を制御する運動系の神経機構,昆虫の行動の仕組みをロボットに応用した例について取り上げる。
行動の「仕組み」とは,別の言葉で言い直せば「アルゴリズム」である。動物の行動は神経系が制御しているが,神経系の構造や機能を理解していなくても,行動の手順である「アルゴリズム」は理解可能である。そこで本書では,行動の「アルゴリズム」を中心にまとめ,平易な解説としている。
著者が歩んできた道についても触れられている。観察や実験好きで科学者に憧れていた子ども時代,思いつきで始めたカマキリの研究から次第に昆虫の行動の面白さに惹かれていく様子,他の研究者との出会いやイギリス留学のエピソードなどを織り交ぜながら,基礎研究の面白さを生き生きと伝える。考える楽しさが存分に味わえる1冊。
1 はじめに
1.1 昆虫の素早い動きの秘密 ?微小脳?
1.2 昆虫の研究を始めた理由
1.3 アルゴリズムという考え方
1.4 この本の狙い
2 姿勢を保つ ?補償運動?
2.1 運動の種類 ?維持するか変化させるか?
2.2 自分の動きを知る手がかりになるオプティックフロー
2.3 視線を一定に保つ視運動反応
2.4 視覚と機械感覚による飛翔の制御 ?ハエの場合?
2.5 視覚による飛翔の制御 ?ミツバチの場合?
2.6 動きの検出
2.7 補償運動の重要性
3 目標に合わせて動きを制御する ?視覚定位?
3.1 なぜ定位行動が必要なのか?
3.2 カマキリの視覚定位 ?滑らかに動かすか間欠的に動かすか?
3.3 カマキリの視覚定位はターゲットによって変わる
3.4 定位運動のアルゴリズム ?サッカードの場合?
3.5 定位運動のアルゴリズム ?追従運動の場合?
3.6 ハナアブの視覚定位 ?雌を追いかける?
3.7 ハンミョウの視覚定位 ?地上を走る場合?
3.8 寄生バエの視覚定位 ?宿主を追いかける?
3.9 進路を遮る ?インターセプト?
3.10 定位の起源
4 目標に合わせて動きを制御する ?脚の運動制御?
4.1 カマキリの捕獲行動 ?餌の位置を知るには??
4.2 複眼から見た餌方向を知る
4.3 頭部の向きを知る
4.4 距離を測る
4.5 前肢の動きを調節する
4.6 感覚情報を運動指令に変換する
4.7 バッタの引っかき行動 ?かゆいところに脚を伸ばす?
4.8 コオロギの触角による行動 ?触って確かめる?
4.9 感覚運動変換の研究における昆虫の利点
5 運動のタイミングの制御
5.1 タイミングの重要性
5.2 衝突を避ける方法 ?(1)残り時間を知る?
5.3 衝突を避ける方法 ?(2)見かけの大きさを利用する?
5.4 バッタの衝突検出ニューロン
5.5 衝突を検出するさまざまな方法
5.6 イギリスへの留学
5.7 バッタの衝突回避行動 ?滑空とジャンプ?
5.8 カマキリの衝突検出ニューロン
5.9 カマキリの衝突に対する防御行動
5.10 行動の不思議
6 筋肉と運動ニューロン
6.1 筋肉というハードウェア
6.2 筋肉の収縮は化学反応
6.3 筋肉の種類
6.4 筋肉と関節の力学
6.5 ニューロンの性質
6.6 運動ニューロンによる筋収縮の制御
6.7 まとめ
7 中枢による運動制御
7.1 中枢神経系の構造
7.2 反射
7.3 周期的運動
7.4 姿勢の維持
7.5 定位行動
7.6 行動の選択と開始
7.7 複雑な運動の制御
7.8 運動制御のモデル
8 ロボットへの応用
8.1 なぜ昆虫を研究するのか
8.2 昆虫の視覚による運動制御の応用
8.3 六足歩行ロボット
8.4 コオロギの音源定位の仕組みを備えたロボット
8.5 カイコガの匂い源定位の仕組みを備えたロボット
8.6 サバクアリのナビゲーションの仕組みを備えたロボット
8.7 ロボットへの応用における今後の展望
8.8 おわりに
参考文献
あとがき
昆虫の視覚情報と運動制御を知りロボットの世界に迫る(コーディネーター 巌佐 庸)
山脇 兆史[ヤマワキ ヨシフミ]
巌佐 庸[イワサ ヨウ]
目次
1 はじめに
2 姿勢を保つ―補償運動
3 目標に合わせて動きを制御する―視覚定位
4 目標に合わせて動きを制御する―脚の運動制御
5 運動のタイミングの制御
6 筋肉と運動ニューロン
7 中枢による運動制御
8 ロボットへの応用
著者等紹介
山脇兆史[ヤマワキヨシフミ]
1999年京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。現在、九州大学大学院理学研究院生物科学部門助教。博士(理学)。専門、動物行動学、神経生理学
巌佐庸[イワサヨウ]
1980年京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。現在、九州大学大学院理学研究院生物科学部門教授。理学博士。専門、数理生物学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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