出版社内容情報
古くから受け継がれてきたと思われている「伝統」の多くは,実は近代になってから人工的に創られたものだった――英国王室の華やかな儀礼式典,スコットランドのタータン文様やバグパイプ,さらにウェールズからインド,アフリカ,ヨーロッパ全般にも目を配り,「伝統」の創出がナショナリズムのイデオロギー構築に果たした重要な役割を明るみに出す重厚な歴史書。
内容説明
「伝統」という言葉は当然のように、「遠い昔から受け継がれてきたもの」と思われている。だが、「伝統」とされているものの多くは、実はごく最近、それも人工的に創り出されたのだと本書は言う。本書は、おもに英国におけるそうした実例をとりあげ、近代になってから「伝統」が創り出された様子を追う。
目次
1 序論―伝統は創り出される
2 伝統の捏造―スコットランド高地の伝統
3 死から展望へ―ロマン主義時代におけるウェールズ的過去の探求
4 コンテクスト、パフォーマンス、儀礼の意味―英国君主制と「伝統の創出」、1820‐1977年
5 ヴィクトリア朝インドにおける権威の表象
6 植民地下のアフリカにおける創り出された伝統
7 伝統の大量生産―ヨーロッパ、1870‐1914
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
16
伝統とは「長い年月を経たものと思われるが、たいていは100年程度で成立したもの、または捏造されたもの」であるという指摘から幕をあける。伝統が「創られる」背景には誰かの思惑、意図がある。それは「集団の社会的結合、帰属意識の確立」「権威・地位の正当化(優越意識の促進)」「信仰や価値体系の根拠付け」のためと、序論でボブズボームは指摘する。本書の主眼は、伝統が作られたものであることを暴くのではなく、何故作られたのかを考察することにある。「国民国家」「ナショナリズム」批判のための鋭い視座を与えてくれる一冊。2015/07/30
Piichan
15
藤井青銅氏の『「日本の伝統」の正体』が話題になっていますが、伝統を「創る」ことは諸外国にもみられ、社会の近代化で国民を統合するのに不可欠だったということがよくわかります。建国の歴史が浅いアメリカではどうなのかが知りたいです。2018/04/15
きいち
15
30年前なんだ、すごいな、この概念提起は、先入観取っ払って今を考える多くの論者の考えの源になってる。植民地インド・アフリカ、内なる植民地であるスコットランド・ウェールズと並列に英国王室が扱われて普遍性は充分。/そして考えが及ぶのは日本。日本人が伝統を感じる生活様式にせよ家族形態にせよ国家神道にせよ、出自は明治初年=1870年代~昭和初年=1920年代と見事に同時代。「近代」の影響力の強さを思い知る。そして今。伝統が創れなくなったのか、それとも創らないのか、いや実は今も創られているのか?さあ、さあ。2012/12/30
イボンヌ
12
「ホブズボウムの伝統は、それがきわめて政治的な意図をもって創られるところに力点がおかれている」P475 まさに教育勅語のことだろう。 政治家が伝統を口にしだしたら、要注意だ。 そんな内容ではありませんが。2017/04/13
yamikin
12
ボブズボウムのこの議論をある意味きっかけとして社会科学系の論文ではこの手の歴史の〈解体〉を施す論文が量産されました。我々は最早創られた伝統を前提にして議論を進めていかねばならない。そこで見られた権力構造や変化がもたらしたもの。その観察へと歴史研究の視座は動いているのではなかろうか2012/02/20