内容説明
「天守物語」姫路城の天守最上階に住む妖怪たちの女主人と、城主への反逆罪に問われ、最上階へ逃げ込んだ若い武士との燃える恋。「海神別荘」雄大な海底世界へ、陸の世界から輿入れした美女は、実の父親にいわば売り渡された悲しい運命の持ち主だったが、何よりも自由を尊ぶ海底世界の王子によって、新しい生命を得る。「夜叉ケ池」大昔に妖怪と交わされた約束に従って、鐘を撞き続ける若い夫婦と、現実的な欲望に屈して妖怪との約束を破ろうとする村人たちとの間の争いと、その間を往き来する妖怪たちの物語。「湯島の境内」現実のしがらみに絡め取られ、消えてゆく悲しい恋。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
42
本シリーズ最終巻は戯曲4編を収録。「天守物語」：姫路城の天守閣に棲む妖怪と反逆罪に問われた武士との燃える恋物語。「海神別荘」：父親に身を売られた娘が雄大で自由な海底世界の王子と結ばれる話。「夜叉ケ池」：大昔に妖怪と交わされた約束で鐘を撞き続ける若夫婦と現実の欲望に屈して妖怪との約束を破ろうとする村人らとの争いとその間を右往左往する妖怪たちの物語。「湯島の境内」：堅実の柵に絡めとられ消えてゆく悲しい恋の物語。実に興味深く読めた。本巻でも泉鏡花の”美と幻想の世界”を窺い知ることができた。2022/08/27
井月 奎（いづき けい）
36
鏡花の娘、養女、養女と言っても弟の斜汀（しゃてい）の娘、血縁的にも近しい姪にあたる泉名月が選に加わった幻想譚集の第五感、戯曲集です。そのなかの「天守物語」を読みました。いやあ、鏡花さんがこだわった総ルビで読める幸せ、歴史的仮名遣いとあいあまって音楽的要素の強いことがよくわかります。緩急の手具合がまさに名人芸です。戯曲は台詞が主になっています。ということは音声を主に使うための作品ですので、鏡花もそこを意識したのでしょう。物語の中での台詞「激しい中にもお床（ゆか）しい」これこそこの物語を表していましょう。2023/07/19
蒐
24
『天守物語』『海神別荘』『夜叉ケ池』『湯島の境内』という４つの戯曲を収録。戯曲という形態が最初は読みづらかったが、慣れるとその場面が鮮やかに脳内で再現される感じがする。舞台化を意識しているためか、どの場面で切り取っても情景が美しい。最初の３作は妖怪が登場する幻想的な物語で、その苛烈さや気高さの中に見える恋心に心惹かれる。白鷺城の天守や、海の底の御殿といった舞台やシチュエーションが素敵で、そこに恋愛譚が絡むのだから堪らない。夜叉ケ池に棲まう妖の姫・白雪は愛しい人に会えただろうか。その恋心は激しく儚く美しい。2019/05/31
nightowl
3
絶版なのが実に残念な初心者向き泉鏡花の戯曲集。物語の背景やマップなどがあり本当に丁寧に作られている。総ルビも非常に助かる。例えばちくま文庫の集成では「海神別荘」の魚類の名前を繰り返し挙げる所が二回目ルビが無く一度頁を戻らなければならない手間があった。こちらはそのようなことが無い。おまけに泉鏡花三大幻想戯曲だけで無く、代表的な名言で有名な「婦系図」のクライマックスをまとめた「湯島の境内」まで付いている。文庫化したらあちこちに布教したい！2019/09/21
shami
0
5巻が一番好み2011/11/28
