内容説明
母親の「私」と自殺してまもない16歳の息子との対話で進められる物語。著者の実体験をもとに書かれた衝撃作。生前と同じような調子で、生と死の境界線を超えて会話がなされ、母親の底なしの悲しみが伝わり強く心を打つ。刊行当初より大きな反響を呼び、PEN/ジーン・スタイン賞を受賞。魂をゆさぶられる他に類をみない秀逸な作品。
目次
1 お母さんに見つかるな
2 日々に不意をつかれて
3 侵入者たち
4 そしてボタンはとれてしまった
5 雨の中でつかまえて
6 好個の秋なり
7 窓の数だけいろいろな花
8 完璧な敵
9 永遠に
10 事実に不意をつかれて
11 もう一度、ここに来てくれたら
12 惰性
13 未来
14 残念賞
15 二度はない
16 飛びかっていない答え
著者等紹介
リー,イーユン[リー,イーユン] [Li,Yiyun]
1972年北京生まれ。北京大学卒業後、アイオワ大学大学院で免疫学の修士課程修了。その後同大学院の創作科に編入。2005年『千年の祈り』で作家デビューし、多くの文学賞を受賞。現在、プリンストン大学で創作を教えながら、執筆を続けている
篠森ゆりこ[シノモリユリコ]
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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小太郎
39
「千年の祈り」のイーユン・リーが息子を自死で亡くした後に書いた本。作者の頭の中で亡くした息子との会話がメイン。近視眼的な会話、言葉に対する執着、息子との色々な思い出が取り留めもなく語られて最初はとても読み難い。近しい人が亡くなった喪失感はその人自身にしか分からないものだと思います。それを彼女は小説と言う形を借りて独白しているのだと思います。そして読み進める内に物語の中で通奏低音の様な彼女の悲しみがこちらの心に響いてきてしまう稀有な小説でした。彼女の言葉に対する強い思いが伝わってきました。 ★42024/07/23
モーリス
4
彼らがいる場所が今もまだ変わらずにある事を祈っている。人は前に進まなければいけない、なんて言われることもあるけれど、頭の中くらい自由でいていいはずなんだから。ここにいることが悲しいけど、救いであり、癒しでもある。自分の傷口をなぞるようなことでも、それ以外に持て余した現実をやり過ごす方法がないのだから、それを取り上げることなんてする必要はないはずだと思う。静かな物語なのに、読み終えた後もその声がずっと反響している。2024/10/10
御庭番
4
一気に読んだ。 子供を失った母親が死んだ子供と話してるんだけど、形容詞のくだりとかほんとすごい。 英語話者じゃない人間にとっての形容詞の使えない感じと子供との溝みたいのがうまくでてる。2024/06/10
Decoy
3
自分は、たいていの物語を楽しむことができると思っていたが、この作品はまったくはまらなかった。とても美しい部分もあって、目に涙が浮かんだ瞬間すらあったにもかかわらず。2024/05/25
寄り道
2
16歳で自死した息子と作家である母親が対話する小説。とりとめもない思い出話だが、母親の思いが伝わってくる。ただ、二人は充分に分かり合えているわけではない。それは英語ネイティブの息子とそうではない母親ということにも関係しているようだ。特に息子は母親の形容詞の使い方や表現力に批判的。ただ、永遠に分かり合えなくても、溝があっても言葉で繋がってさえいれば息子は生き続ける。息子の生を16歳で終わらせずに.‥ 言葉の世界が絶望感や喪失感、底なしの悲しみを慰めてくれるものであることに初めて気づかせてくれた小説だった。 2024/08/16