出版社内容情報
20年ぶりに再会した息子は別の家族に育てられていた――時代の苦悩を凝縮させた「ハイファに戻って」など、不滅の光を放つ名作群。
内容説明
悲劇的な親子の再会を通して時代に翻弄される人間の苦しみを描いた『ハイファに戻って』、密入国を試みる男たちの凄惨な末路を描く『太陽の男たち』ほか、世界文学史上に不滅の光を放つ名作7篇を収録。若くして爆殺された伝説の作家による、パレスチナ問題の苛酷な真実に迫る衝撃の作品群。
著者等紹介
カナファーニー,ガッサーン[カナファーニー,ガッサーン] [Kanafani,Ghassan]
1936‐1972。パレスチナに生まれ、12歳のときユダヤ人武装組織による虐殺を生き延び難民となる。パレスチナ解放運動で重要な役割を果たすかたわら、小説、戯曲などを執筆。36歳の若さで自動車に仕掛けられた爆弾により暗殺される。遺された作品は現代アラビア語文学を代表する傑作として評価されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
111
作品集。著者はパレスチナに生まれ、難民となった経験を持つ。収録作には彼の実体験を元にした話もあれば、ずれた目線を投じる世界への皮肉や大きく報じられない個々の家族の悲しい物語が描かれ、やるせなさと共に終わりの見えない虚無感に囚われた。「太陽の男たち」では灼熱の砂漠の中を走る張り詰めた描写が印象的。それが男たちの交錯した思いの行く先をより強烈なものとした。どの物語も悲しさだけではない。「ハイファに戻って」の父親が自らの感情が揺れる中で人間の咎を問う姿。その声の叫びは解説にもあったが狂おしくも正気の声なのだ。2023/10/28
どんぐり
97
パレスチナ人作家の表題作2篇を含む短編7作。「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ」と給水車のタンクに隠れて密入国する男たちの危険な旅を描いた〈太陽の男たち〉。自分の手でオレンジを植え育てていた農民が土地を追われていく〈悲しいオレンジの実る土地〉。20年振りに訪れたハイファの家で失った息子がユダヤ人家庭で生きているのに再会する〈ハイファに戻って〉など。どの作品もパレスチナ問題が生む底なしの挫折感や悲劇を描いている。→2024/07/06
nobi
89
冒頭の「太陽の男たち」強烈。中東の太陽は灼熱地獄と砂塵をもたらし、人間からは繊細さと優しさを奪う。生存の限界ぎりぎりの時間が迫るのをうすら笑う輩がいて、稀に残った良心が抗い悶える。その対比さながら、反知性的世界にカナファーニーという強靭な文学的知性が挑むかのよう。緩から急へ、強拍・弱拍の連鎖、現実に紛れ込む空想、等切迫度を高める構成の妙に気づいたのは読み終えてから。「ハイファに戻って」他の短編でもパレスチナの過酷な現実に粛然とする。この作家はパレスチナを愛している。それでもユダヤ人を敵として描いていない。2020/09/06
syaori
78
自身も12歳で難民となったパレスチナ人作家の短編集。語られるのはイスラエルにより故郷を追われたパレスチナ人の「無念と不幸」。それは「堅固に構築された幸せな家庭を」根こそぎにされ、子供にシャツや食物を買えず、選挙権もなく誇りも「これっぽっちも与え」られないということ。それらが子供や難民児童の学校の教師など様々な視点・角度から描かれて、やるせなさばかり積もってゆくよう。少年の胸にたたみ込まれた悲劇を描く『路傍の菓子パン』、正義とげっそり痩せた息子への思いの間を揺れる『盗まれたシャツ』には特に胸をつかれました。2024/03/22
藤月はな(灯れ松明の火)
71
世界が見て見ぬふりをしてきたパレスチナの現実を小説という形で訴えた作家がいた。その名はガッサーン・カナファーニー。「太陽の男たち」は命がけの故郷への密入国を挑む男たち。亡骸になった密入国者の金品を盗むも密入国仲介者は問いかけずにいられない。「なぜ、地獄を我慢したのだ」と。その問いの交わらなさが虚しい。一方で「悲しいオレンジの実る土地」は思い出やそこから成る希望がある土地を奪われ、捨てざるを得ない者の悲嘆、「ハイファに戻って」はそれによって切れた親子の絆が胸を突く。土地を追われ、奪われる事も魂の殺人なのだ。2024/07/22