内容説明
霧のたちこめる港町ブレストで非情の殺人を犯す水夫クレル。その瓜二つの弟ロベールと、彼ら二人を愛する淫売屋のおかみリジアーヌを巻き込み、展開されてゆく「分身」たちの輪舞。そこでは、愛と裏切りが奇蹟的な融合を遂げる!魔術的とも評される言葉の圧倒的な力で、サルトルやデリダを驚愕させたジュネの代表作、渋沢龍彦の名訳で待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
69
愛と裏切りが奇跡的に融合し、独特の甘美で乱暴な世界を作り出していると思います。殺しあうほどの嫌悪感が狂気ともいう同性愛に結びつく魔術に引き込まれました。増殖するように生まれる自己の輪舞が低俗であり高尚、醜くありながらも美しい独特の色彩を描きだしています。艶やかで甘美な男たちの暴力的な姿に圧倒的な力を感じました。2018/01/15
優希
36
再読です。愛、裏切りが奇跡のように絡み合う物語。「分人」たちの奏でる協奏曲は殺し合うほどの嫌悪感を奏で、同性愛への調べを生み出しているように思えました。低俗でありながら後期、醜いながらも美しいジュネの世界観を感じずにはいられません。圧倒的な力を見せてくる作品です。2024/10/28
ふくしんづけ
9
ただひたすらに影である。闇一面であるからこそ、そこに一筋の光が生じる。ジュネの文章もまた、常に観念的で、意識をミクロ単位で書き出すので、なにを言っているかわからなくなる部分もある。だがわざとそうするのではなく、それでしか形成し得ないジュネの願望がそこにあるのだ。〈殺人の観念は、しばしば海の観念、水兵の観念を呼び起す〉闇の中でしか生きられぬから観念的に語るこの文章、そして水兵服のズボンの合わせ目という、特定の視点にフォーカスすることでそのあけすけな欲望がなにか光と感じる、そこにジュネの言葉の魅力がある。2022/02/17
彩菜
6
セブロン少尉の同性愛故の孤独から生まれたと書かれる主人公クレル。少尉が密かに愛する水兵で犯罪者の彼はブレストで殺人と盗みを犯し、彼なりの贖罪に同性愛の世界に入る。そこに愛はないと作者は書くので少尉同様孤独だが愛し合う程瓜二つの弟がいて一人ではない。又彼は盗みを聖化する為自分の一部とも思う友を生け贄にする。警察は少尉の不安を映すように同性愛者を犯人として探し、クレルに友達だと言われた翌日逮捕された少尉は自らも彼の罪を被ってしまう。少尉は彼の一部とされ自身もそう望んだんだろうか。孤独だが一人ではない愛する男、2018/10/08
やまら そたお
1
言葉の組み合わせの妙でこれほど力のある小説を書けるのか。内容は男色、盗み、殺人、と相変わらずなのに。2013/07/27