内容説明
自宅に帰ると鍵穴が消え、家から閉め出されてしまった定年間際の公務員・富井省三。妻に先立たれ、息子や娘とも疎遠な男は、街をさまよい謎の占い師と出会う。不吉な予言、しゃべる犬、幻の七福神。次々と起こる不思議な出来事は省三を鎌倉の亡き伯父の家に、そして先祖を巡る旅へと導いていく。心の孤独を解きほぐす、中年男の冒険譚。
著者等紹介
絲山秋子[イトヤマアキコ]
1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川龍之介賞、2016年『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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エドワード
28
定年間近の公務員・富井省三が、妻と死別し二人の子供が独立した家へ帰ると、「鍵穴」が消えていた。家へ入れない?どうしよう。夜の街で“乙”と名乗る男に助けられホテルに泊まる。前半は幻想と現実の狭間で先の見えない不安の極みだ。今は空き家の鎌倉の伯父の家へたどり着いた省三が、亡き先祖に思いをめぐらせる後半への布石か?私の両親は先祖のことを話さなかった。両親の死後、初めて知ることが多くて驚いた。生まれてすぐ死んだ子供。戦死した若者。省三が先祖の故郷、佐久を訪ねる旅に自分を重ねていた。“乙”の正体にはニヤリだったね。2023/10/29
くるみみ
19
検索すると新潮文庫が出てくるけど講談社、新潮社からの河出文庫で再文庫化と巻末にある。再文庫化の定義は知らないけど年を重ねた人ほど味わい深いお話だと思う。裏表紙のあらすじ通りの展開で、主人公58歳の省三の描写が自宅の鍵穴が無くなって家に入れなくなってもしゃあないわと思えるような絵に描いたようなオッサンだった。それがどんどん変わって本来の自分を取り戻していく様が良かった。そのきっかけがファンタジーのような出来事なところがまた良い。絲山作品は何冊も読んでるけれどこの作品で好きな作家さんだ!となぜか思えた。2024/02/04
阿部義彦
19
河出文庫新刊。2011年講談社、14年に新潮文庫から出たのの再文庫化です。絲山秋子さん売れないからなのか新潮社からも見放されて、それを再文庫化してくれるのが河出なのですよね、流石、坂本龍一の父親の居た会社です。小説読んだの久しぶりかも、絲山さんの小説は確かに読者を選ぶかも。私は筒井さんの「夢乃木坂分岐」に似てると思いました。サイコドラマの様、現実的整合性など二の次、主人公の省三のご先祖を巡る心の旅、だけど単なるオカルトには終わらない冒険譚。斎藤美奈子さんの解説も良い。久々に物語を堪能しました。2023/09/21
onasu
16
区役所勤め、定年間際の富井省三(妻とは死別、息子は結婚、娘は家を出たきり)は、帰宅すると鍵穴が消えており、家に入れなくなっていた。 人為的ではなさそうだが、新しくもない一軒家なら、何処かから入れそうなものの、省三は息子に連絡した他は、とりあえず呑みに行き、深夜の新宿で占い師を名乗る男に声を掛けられて、そこからちょっと不思議なストーリーが転がっていく。 家に帰れないおかげで不可思議なことに行き合っても、ちゃんと区役所には出勤していて、意外な人が関わってくるというのもバランスのいい作品でした。2025/07/07
小夜風
16
【所蔵】自宅の鍵穴が消え家から閉め出されてしまった定年間際の公務員。妻に先立たれ父親は早くに亡くなり母親には自分を忘れられ…娘は音信不通、息子も疎遠になりがち…自分の親世代の話だけど、もう自分も当てはまる世代になりつつあるのだなと思いながら読んだ。鍵穴が消えることも普通ならあり得ない不思議なことだけど、その後も少し不思議なことが次々と起こって読んでいて楽しかった。状況はかなり悲惨な筈なのに、どことなくユーモラスで悲壮感はそんなに感じなかった。最後に出てくるあの木は本当にある木なの?どんな花か見てみたい笑。2024/05/15
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