出版社内容情報
同郷の熊野出身の博物・民俗学者・南方熊楠を紹介した初めての評伝。熊楠生誕150年に、初めて文庫化。読みやすい新字新仮名で。
内容説明
独創は苦々しい宿命であり、先駆は悲痛な使命であるという哲理の証人の一人として世に現われた我々の主人公は、多くの伝説で飾られながらも畸人という通俗な観念でかたづけられ、誤まられていた。この異様な文化人の奔放不羈にも、亦、天真無垢な人間像を眺めたいという目的で、確たる証拠に従って書かれた、格調高い最初の熊楠評伝小説。
著者等紹介
佐藤春夫[サトウハルオ]
1892年、和歌山県新宮生まれ。詩人、作家。慶應義塾大学文学部中退。抒情的清明な詩歌と倦怠・憂愁の小説で文壇に地歩を築いた。文化勲章受章。1962年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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憲法記念日そっくりおじさん・寺9条
59
盛り上がってはいないが、今年は南方熊楠生誕150年である。しかしお陰でこんな本が復刻された。河出文庫は朝ドラ『あさが来た』の時も織田作之助『五代友厚』を復刻していて嬉しいのだが(これらのお陰で私は佐藤春夫や織田作を初めて読んだ)、いずれも表紙が肖像写真にタイトルだけという、岩波文庫の表紙よりつまらなそうな装丁なのが残念である。本書は熊楠と同郷同時代人である佐藤が、生前からまことしやかに伝えられる熊楠の伝説を廃し、史料を元に実像を讃える1冊。短いながらなかなか面白い。佐藤の昭和天皇対面記が興味深かった。2017/11/11
じゃがいも
12
明治という時代の高揚が生んだ豪快な怪物。直情径行、傍若無人、語学23ヵ国語、若い時の放浪生活でアメリカでのサーカス団、ロンドン大英博物館員時代の浮浪者のようなぼろぼろの服、60過ぎて冬の熊野山中を浴衣で70日粘菌採取した体力、ロンドンで会った孫文との親交、晩年の天皇熊野行幸での御進講とキャラメルの箱に入れた粘菌の標本をお土産物を出したこと、当時エコロジー思想をもち神島の自然を政府の神社統号令に盲従する知事から守ったこと、金銭に恬淡だが生涯貧窮など面白いエピソードが豊富で佐藤春夫の明治的な名文が冴える。2019/11/05
でろり~ん
3
一気読み。熊楠の新しい本が出たのかな、と思って即買いしたのですが読み始めて、アレ? 言葉が時代がかっているなと感じて、著者の名前を見てビックリ。同郷だというのも初めて知りました。それにしても出版界も独自の世界感があるんでしょうね。生誕150周年とはいいながら、特に熊楠祭りっぽい動きはないですし、再出版もこの文庫ぐらいなのかもしれない。著者は熊楠の家庭生活についてはほとんど触れていないのですが、霊感についての考察は著者ならではの物言いでした。奇人を否定する世間になってしまったのはいつからでしょ。著者も奇人。2017/12/30
dani
1
何かの小説でキャラメルの箱を持って現れていた覚えがあるが、あれはフィクションだったんだー。まぁ、不思議な偉人。偉人さはあまり分からなかったが。2023/10/11
まんぼう
1
粘菌はとてもひっそりひっそりと生きている。愛おしい生き物だ。ただ、ひっそりしすぎていて見過ごされてしまう。そんな植物と動物の狭間に存在する生き物の生態から、生物の生と死の状態、宗教的死生観にまで広がる一文が非常に強く印象に残った。ただひたすらに純粋に、知的好奇心と超人的行動力、そして一切構わず追及していく情熱が羨ましく、憧れる2023/09/05
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