内容説明
水天宮の段々坂に鈴の音が鳴ると、ぼくの兄さんとよく似た少年が現れる。歳の離れた姉さんは言う。ぼくには六歳で死んだもう一人の兄がいたのだと。兄さんは作り話だと笑うのだが…著者が初めて子どものために書下ろした珠玉作。
著者等紹介
長野まゆみ[ナガノマユミ]
東京都生まれ。女子美術大学卒業。デザイナーを経て、『少年アリス』で第二五回文芸賞受賞。独自の作風で熱狂的に支持され続けている
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mii22.
52
ノスタルジックな長野作品の中でも、特に昭和の子供の頃の風景や暮しが目の前に浮かび上がるような作品だった。まるでこの物語のどこかに自分が登場するのではないかと錯覚するような懐かしさにきゅんとする。ご近所のおばあちゃんやおじいちゃん、幼なじみ、もちろん父や母も当時のままの姿で目に浮かぶ。特に湯屋(お風呂屋さん)の情景やそこでのエピソードなどはどれも経験したことでたまらなく懐かしい。不思議な少年の存在が謎のまま月日がたって大人になって思い出すシーンも経験あったよう気がしてならない。2021/04/29
紅香@本購入まであと4冊
33
昭和三十年代の中頃まで洗濯機も冷蔵庫もなくて当たり前、あれば便利くらいのものだった。お風呂も家になくて湯屋にいくのが主流。何だか信じられない。舞台はそんな日本。ある家族の日常。。まだ豊かではなく…でも今より豊かに感じるのはなぜだろう。ほこりとひなたの匂いが立ち込めて、とても風通しがいい。隣と近所の境目がなく、あの世とこの世もふとした弾みで繋がっても構わない、懐の大きい雰囲気。もうそんな時代はこないのだろうか。不思議。その時代に生きていないのにとても愛おしい。祖母の姿を文面に垣間見たからかもしれない。2016/02/02
coco夏ko10角
24
昭和のいい空気だ…。そして キリリンコロンの鈴の音、ちょっと不思議なお話…。2016/05/06
冬見
17
水天宮の段々坂に鈴の音が鳴ると、兄さんとよく似た少年が現れる。かつて、僕と兄さんが生まれる前に死んでしまった兄。ふらりと現れる死者は日常に溶け込み、またあるときふといなくなる。何か目的があるようにも見えず、ただそこに存在している、というのは生きている人間とさほど変わらず、その存在をつるりと受け入れてしまう。湯屋の熱い湯と冷えた霧状の空気。ぼんやりと熱に浮かされ、冷えた視界がクリアになっていく、その繰り返し。2017/02/02
橘
17
夏の不思議な物語でした。漂う昭和の風情も素敵でした。長野さんのあとがきも興味深かったです。2014/12/07