出版社内容情報
すべての疲れた人たちへーー。
未踏の文学を切り拓く作家による、
韓国と日本を舞台にした冬眠小説集の誕生!
・冬眠は、健康診断とカウンセリングを経て開始する。
・万一に備えて冬眠者を見守るガイドが必要になる。
・ガイドは、信頼できる人にしか任せられない。
・冬眠者の多くが、はっきり記憶に残る夢を見る。
内容説明
1、2、3。目を開けて。ソウル、釜山、沖縄、旭川。治療としての“冬眠”が普及した世界の、眠る者と見守る者。やがて犬たちが、人々を外へと導いて―。未踏の文学を切り開く作家による、世界とはぐれた心を結び直す冬眠小説集。
著者等紹介
パクソルメ[パクソルメ]
1985年、韓国・光州広域市生まれ。2009年に長編小説『ウル』が「子音と母音」新人文学賞を受賞してデビュー。「完全に新しい、見たことのない小説」と評価された。2014年に「冬のまなざし」で文学と知性文学賞、短編集『じゃあ、何を歌うんだ』でキム・スンオク文学賞を受賞。2019年にキム・ヒョン文学牌を受賞。2021年に『未来散歩練習』(斎藤真理子訳、白水社)で東里木月文学賞を受賞
斎藤真理子[サイトウマリコ]
翻訳家。パク・ミンギュ『カステラ』(共訳、クレイン)で第一回日本翻訳大賞、チョ・ナムジュ他『ヒョンナムオッパへ』(白水社)で韓国文学翻訳院翻訳大賞、ハン・ガン『別れを告げない』(白水社)で読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
40
これまで邦訳されたパク・ソルメ作品のなかでは最も読みやすく筋書きも追いやすい。前二作の実験的で尖った作風に魅了された読者としては少し物足りなくも感じたが、やはりあの独特な言葉遣いと浮遊感には得も言われぬ快感がある。この”良さ”を表現する難しさを考えていたところ、付属のカン・ヘリムによる「理解も解釈も必要なく、そこにあるものをそのまま読み取るのが楽しいという時間が存在するのだ」という言葉に救われた。小難しいことを考えずあの遊歩に身を任せるのも、一種の文学との向き合い方なのかもしれない。2025/03/01
ケイティ
33
とてもよかった。心身治療の一環として長い睡眠を取る「冬眠」者と、それを見守る「ガイド」たちの物語。巻末に寄せられた装丁家の推薦文が素晴らしく、「理解も解釈も必要なく、そこにあるものをそのまま読み取るのが楽しいという時間が存在する」という読書だった。疲弊した都市生活という前提だが、静かで柔らかく深刻にならず、浮遊しているような空気感が気持ちいい。掴みどころがないようで自分の世界と繋がっている感覚になり、不思議な設定や展開にするりと入っていける。『未来散歩練習』から続く、抜け感のある雰囲気に包まれました。2025/04/02
家出猫
12
この作品の中心を貫くのは、冬眠という概念である。心も体も疲れた人たちが、ガイドの手助けを経て冬眠を体験する。3年ほど前にもしこの作品に出合えたのなら、私もまた冬眠が必要な人の中に紛れてしまっていただろう。時間という概念の在り方が、この小説では一つの特殊性を生み出している。冬眠中の人々は、はっきりとした夢を見る。その夢の中での時間、そして夢の外でガイドを含めた他の人が過ごす時間、冬眠から目覚めた時に、冬眠者が感じる時間。そういった時間そのものに焦点を当てて読んでも、この作品は味わい深いものになると感じた。2025/04/20
えつ
12
パク・ソルメさん、初めましてでした。もう初っ端からグイグイ引き込まれていって、読みやすさもあったんだけど。心身治療のために「冬眠」をする人がいて、その「冬眠」者を見守る「ガイド」がいるって、単純にすごい設定だなって思った。韓国と日本を舞台にしているから、とても身近なことで、本当に「冬眠」制度があるんじゃないかな?と思ってしまうほど不思議な感覚に陥った。あと、読んでいるうちに、芥川系の純文学みたいな雰囲気だなって思った。原文だとまた捉え方が変わるんだろうか?何にせよ、魅力的な作品ではあった。2025/04/19
きり
7
「冬眠」が、余暇を充実させるための選択肢、または、傷を癒す為の治療に近いものとして存在する世界。日常と地続きの現実感と共に描かれる。冬眠中に見た夢の副作用として、未経験のことを経験したと信じるようになるなんて、お得かも。冬眠者にはガイドが必要。存在を支え、響き合うもう一つの存在としてのガイド。影犬が何を象徴しているのか。“影犬は、時間と心の結びめがほどけてしまった人々のことろにやってくる”。自分自身と世の中をつなぐ紐がゆるんだと感じるとき、影犬は散歩を要求する。散歩は人生の導き…。2025/05/24