内容説明
ピョートル大帝は、ドイツ人の服装をし、手に斧をもち、口にパイプをくわえ、水夫のように働き、兵士のように酒をのみ、喧嘩をした。彼は専制的な手段でロシアを近代的強国に仕立て上げようとし、教会を国家権力のもとに置いた―。地上的なものに執着し、地上の権力を追求してやまない選ばれた人間の倨傲と孤独(ピョートル)と、柔和な魂をもち、地上的なものを恐れ嫌い、天上的なものを夢想しつつ地上に惹かれ苦しむ人間の迷妄と悲惨(皇子アレクセイ)を対置し、父子相争う運命悲劇を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
em
18
ロシア十月革命の後、フランスに亡命した著者。歴史小説三部作最後の舞台は、18世紀の祖国ロシア。この後ロシアが革命に至るまでには長い道のりがあるけれど、ピョートル一世(大帝)は、西欧的近代を意識した最初期の皇帝ともいえる。「地上の真理」に従う反キリスト=ピョートルは、皇子アレクセイの中に、ロシアを迷妄の時代に後退させる前兆をみる。迷い、恐れるピョートルがアレクセイを死に至らしめる場面は、イヴァン雷帝の子殺し、子を抱えてぽっかりと目を見開くあの絵と重なる。2018/11/15
Tamler
1
「キリストと反キリスト」三部作最終作の下巻にしてロシア篇、ここでの主題はロシアと反ロシアだ。ロシアを裏切った者たちはピョートル大帝によって次々と処刑される。だから本作は三部作のなかで最も人が死ぬ。異端の分離派教徒による秘儀(焼身集団自殺、乱行)の描写も凄い。疑いなく前二作品よりもはるかに身体性やセクシュアリティが前面に出ている。ロシアでは対立のありかたはとことんフィジカルなのか?全体的に冗長だが、読後に得られる充実感はこの上ない。いやマジですばらしい。河出書房さんにはぜひとも三部作を再刊してほしい。2025/11/21




