感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syota
5
シェイクスピアの戯曲に関しては、近年3篇が新たに真作と認められた。この作品はそのうちの一つで、国王でも古代の英雄でもない人物を描いた異色の歴史劇。いくつかのエピソードの積み重ねで構成されており、トマス・モアの高潔で温かくユーモアに溢れた人柄が伝わってくる。特に、国王の文書に署名するのを拒否してからの部分は、信念に殉じて死を恐れないモアの崇高な姿を伝えて感銘深い。二人の訳者が共同で訳文を推敲したそうだが、そのためか文章にぎくしゃくした箇所が見受けられるのが残念。2015/03/04
がんぞ
3
最後の史劇『ヘンリー八世』にはトマスモアは登場しない、その補足とも考えられる。冒頭の暴動の場面、潔く絞首刑になるリンカンの態度がモアの斬首刑前の陽気さの伏線。本文は半分、後半は史実の解説など。どれほど英国が弱い立場にあったか、大陸に比べ野蛮な国であったか知って驚く。しかし海賊は一蓮托生の一つ船の中で民主的なものだ、その伝統もあるようだ。モアはカトリックの立場を貫いたがシェイクスピアさえ擁護する劇を書くことに後難を恐れて匿名にしたらしい。「兄の妃と結婚したのはやっぱりマズイ」という離婚理由は無理とは思えない2016/04/03