内容説明
未来も勿論なく、あとはただ捨てられるだけのボロ布が、唯一の存在感を主張するに必要な揺れを演出する微風が、「誰か家賃を払ってくれないか?」のいなたいメロディと重なって小さなスピーカーから流れた。ささやかに、煤けたボロ布はたなびいた。それは主張と呼ぶには、あまりにも小さな声。起こっても起きなくても、どちらでも構わないような、何事かが起きたとも言い難い、誰の感性にも認知されない音量の小ささだった。(本書より)。暗黒のマイスターが、病いに倒れる直前まで書き継いだ果てしなき崩壊のための言葉の閃光。
著者等紹介
中原昌也[ナカハラマサヤ]
1970年、東京都生まれ。「暴力温泉芸者」名義で音楽活動の後、「HAIR STYLISTICS」として活動を続ける。2001年『あらゆる場所に花束が…』で三島由紀夫賞、06年『名もなき孤児たちの墓』で野間文芸新人賞、08年『中原昌也 作業日誌 2004→2007』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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garth
8
「実際には、肉食の蟹は闘いに負けた人間を、頭から丸ごと食してしまうので、死体は残らず、なかなか実態が把握し難いのが現状であるのだが、それでも綿密な調査を求める声は後を絶たない」2025/05/28
moon-shot
3
中原さん、初読みです。分裂症気味の脳内を妄想が駆け抜ける。女の殺し方を執着的に空想したり、食べられる大人のおもちゃを探し回ったり、気が付くと地下鉄のホームに立っているというのを何度もループしたり、やたら馬の話が出てきたり、武田鉄矢をディスり始めたり、ゴツゴツおばさんとかマスカット狩りとか、トバイアス星人とか、濃厚なカニミソとか。その合間合間に、できの悪いAIが出力したかのような平板な説明文が挟まってくる。コラージュみたい。疲れたけどカニミソならぬ脳みそぐちゃくちゃに掻き回されて、それはそれでちょっと快感。2025/06/05
biwacovic
1
短い中に単語数以上の謎を残すテキストが並ぶ。もはや誰が主人公で、誰が語り手なのかわからなくなる混濁したテキストが現れ、カタログから転記したような無味乾燥なテキストが現れ、突如として悪意や絶望の怒りのイメージが差し込まれる。164ページから165ページの炸裂するコピペの洪水といったらもう。そして最終的には「PET OFF」を検索した。2025/05/30
yoyogi kazuo
1
この本を購入することは国民の義務でしょう。憲法に明記すべきだ。2025/05/18
Ryu
1
短編が9個入っています。最晩年の小島信夫を彷彿とさせる短編集。2025/05/18