目次
霞たつ逢坂山の
年の緒を去年と今年に
よもすがら軒端の梅の
若菜つむ誰が白妙の
雪もなほ布留野の若菜
四方の空は更けしづまりて
み吉野の山分け衣
山田もる秋の鳴子は
花の雲空もひとつに
紫も朱も緑も〔ほか〕
著者等紹介
大内瑞恵[オオウチミズエ]
北海道生。総合研究大学院大学修了。博士(文学)。現在、東洋大学・都留文科大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夜間飛行
163
師の幽斎とは逆に武士の恥を晒し、奥方から離縁され、野に生きた人。同じ弟子でも貞徳や光広とは全く違う。《雪もなほ布留野の若菜そで寒み摘む乙女子や手房吹くらし》…若菜摘みの歌は多く、雪と若菜なら百人一首の《君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ》が有名だ。長嘯子は少女がかじかんだ手に息を吹きかける動作を詠む。そうした日常の動作は卑近でありつつ、神話の乙女の姿が重なって振幅を感じさせる。長嘯子の歌には伝統を学んだ歌人たちをハッとさせる何かがある。それは静かな生活の中から生まれてくるものだと思った。2024/09/05
山がち
2
戦国時代から室町期の和歌は比較的発想の新しさがあるように感じているが、長嘯子も例に漏れないように思った。「はかなくてあはれ今年もかき暮れて雪さへ身さへ涙さへ降る」が非難されたのは想像に易いが、文学史的意義はともかくとして興味深い作品であることには変わりないように思った。貞門派と近い位置にありながらも、松永貞徳から門下生を奪ってしまったといったことで非難されてしまったことなど興味は尽きない。また、隠棲歌人として西行などにも近い位置にありながら、俳諧歌も十分に読んでいることも時代をしのばせられて興味深かった。2013/12/31