目次
振り仰けて若月見れば
春の野にあさる雉の
夏山の木末の繁に
あしひきの木の間立ちくく
人も無き国もあらぬか
夢の逢ひは苦しかりけり
夕さらば屋戸開け設けて
秋の野に咲ける秋萩
今日降りし雪に競ひて
たまきはる寿は知らず〔ほか〕
著者等紹介
小野寛[オノヒロシ]
1934年京都市生。東京大学大学院修了。現在、駒澤大学名誉教授。高岡市万葉歴史館特別顧問(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
312
『百人一首』は「かささぎの渡せる橋に...」をとるが、家持を代表する歌を一首選ぶとすれば、やはり「わがやどのいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも」だろう。同じ『万葉集』とはいえ、人麿の「東の野に...」や、額田王の「熟田津に...」からは遥かに遠い歌境である。「かそけき」という繊細極まる表現は、もはや『古今集』に限りなく近接性を持っている。巻19のこれに続く歌「うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば」の思維もまた上代を突き抜けて、むしろ近代的(恣意的に過ぎる解釈だが)でさえある。2022/11/10
しゅてふぁん
53
家持の歌を時代順に読むと、やはり越中へ赴任して以降のものが良く出来ているように思う。住み慣れた土地を離れ、歌人としても人としても成長したということかな。そしてミヤコに帰ってきてからの家持の絶唱、春愁三首は圧巻。個人的には家持と旅人の共通点を見つけるが一番楽しい。例えば家持には『遊仙窟』の影響を受けた歌があるが、旅人は物語めいたものを作っていたなとか、「花妻」ということばは万葉集の中では2例しかなく、旅人(萩)と家持(なでしこ)しか用いていないとか。他の親子歌人でも共通点を探してみたくなる!2019/05/06
しゅてふぁん
52
再読。今回は時代が違う5冊を読み比べ。やはり万葉歌人だけあって、初期万葉の時代ではなくとも歌に‘古代’を感じる。勅撰集などでも時代毎に違いはあるだろうけど、奈良時代の万葉集と平安前期の古今集との隔たりの大きさはそれ以降とは比べ物にならないと思う。古代人の言霊信仰を色濃く感じる万葉のやまとことばは美しくて逞しい。そのことばで詠まれた歌は他の時代の歌と比べるととても力強いと思った。2020/12/30
はるわか
16
振り仰(さ)けて若月(みかづき)見れば一目見し人の眉引思ほゆるかも/立山(たちやま)に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし/春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげにうぐひす鳴くも2022/03/01
はちめ
8
初読の際は平板な作風だと感じていたが、再読して清明な作風だと感じるようになった。上代語なので伝わりにくいところはあるが、近代短歌に通じる素直な読みぶりの作品が多くあることに気づいた。 なお、本書の特徴として、作品のみから解釈を行い、おそらくあえてだと思うが、家持が置かれていた朝廷ないにおける権力闘争が作品に与えた影響についてはあまり触れられていない。☆☆☆☆★2019/12/16