内容説明
王侯貴族のお抱え楽師、戦場で兵士を鼓舞する係、為政者を揶揄する道化、権力に抗うレジスタンス、祝祭を盛り上げるコメディアン、庶民の代弁者、生のはかなさを説く語り部、門付(かどづけ)芸能者…歴史的に担ってきた多様な役割と、現代を生きる職能者のアーティストへの転身、世界的な活躍までを追う。
目次
チュンブルなやつら
古都ゴンダール、王女が眺めた場所
生きつづける神話、楽器マシンコ
権力への従属と抵抗、メディアとしての芸能者
祝祭儀礼とアズマリ
精霊との会話の仲介
農作業とアズマリ
ほめ歌
〓と金、イメージの世界への潜行
秘密の言葉の秘密
故郷とのつながり
タガブとイタイア
ひろがるアズマリ・ネットワーク―メケレにて
ワシントンDCのアニキ
著者等紹介
川瀬慈[カワセイツシ]
1977年、岐阜県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。国立民族学博物館/総合研究大学院大学准教授。専門は映像人類学。人類学、シネマ、アート、文学の交点から創造的な叙述と語りの地平を探求する。主な著作に『ストリートの精霊たち』(世界思想社、2018年、第6回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞)など。代表的な映像作品に『Room 11,Ethiopia Hotel』(イタリア・サルデーニャ国際民族誌映画祭にて「最も革新的な映画賞」受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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スミス市松
14
かつてミシェル・レリスが憑依儀礼ザールを調査したエチオピア北部の古都ゴンダールにて、著者カワセは二十年以上にわたってアズマリと呼ばれる伝統的楽師たちと交流を築いてきた。そのフィールドワークの成果が凝縮された本書には、畏怖と同時に差別の対象だったアズマリの社会的地位の変遷や、アムハラ語歌詞とその隙間に交わされる隠語の解説、門付芸能者ラリベラの起源伝承など学術的形式で書かれてもおかしくない内容が多く盛り込まれている。だが、カワセはまるで今ちょっとそこで彼らの演奏を聴いてきたかのような軽やかな語り口で素描する。2021/12/28
林克也
4
アズマリ、マシンコ、そしてラリベラ。日本に置き換えてみると網野善彦さん言う芸能民に通じる世界だと思う。 川瀬さんを社会学者というか人類学者というかはともかくとして、その調査対象にどっぷりと没入するフィールドワークは、この界隈の人達(学者)の得意技ですね。私にはとてもできないことですが、こういう人達の研究成果を学者でもない一般人がヌクヌクとした部屋で読むことができるなんて、ある意味とても贅沢なことなのだと思う。やっぱり学者・研究者っていう種族は人の世界に必要不可欠な存在であり職能なんだ。2020/12/17
kana0202
2
なかなかイイ。YouTubeで著者のとった映像をみるとなおイイ。2021/01/30
越部社長
1
エチオピアで弦楽器マシンコを弾き語るアズマリと呼ばれる人々と朝家々を回り歌うラリベラと呼ばれる人々の、差別を受けながらも生き生きとしたたかに生きる様子を描いた記録。日本とは文化も言葉も何もかも異なるエチオピアに暮らし、彼らの隠語も理解するまでにその生活に分け入っていく社会人類学者だからこそ描ける、異質で貴重なドキュメントである。2025/04/05