内容説明
ある日、母が「男」になった。それが始まりだった。以来、シルビオの世界は少しずつゆがみはじめた。人に言えない悪癖にとりつかれ、他者と交わることもできなくなったシルビオ。そんなとき、背徳と情熱の町ナポリで男でもない女でもない、謎めいた大学教授に出会う。教授の出す奇妙な課題はさらに尋常ならざる世界へとシルビオをいざなう…。年老いた女装街娼や去勢された男性歌手、伝説の人魚や両性具有の神たちが織りなす哀しくも優しい異形の愛の物語。ランダムハウス講談社新人賞優秀賞受賞作。
著者等紹介
小島てるみ[オジマテルミ]
1968年生まれ。宮城県在住。専修大学文学部英米文学科を卒業後、イタリア、スペイン、ラテンアメリカに留学。翻訳業を経て、イタリア語で小説を発表。『ヘルマフロディテの体温』で、2007年に第一回ランダムハウス講談社新人賞優秀賞に輝く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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青蓮
108
数年ぶりに再読。とても神秘的な作品。舞台は背徳と情熱の街・ナポリ。謎めいた真性半陰陽の大学教授に出会った青年シルビオは、奇妙な課題を出される。それらと向き合っていくうちに見えてくる「本当の自分」。年老いた女装街娼、カストラート、伝説の人魚、両性具有の神たちの神話ーー「生」と「性」を巡る途方もない「お伽噺」が織り成す幻想耽美な物語に惹き込まれました。ゼータ教授が言う「生命の進化の目的はただ一つ。愛することだ」が強く印象に残ります。表紙を飾る山本タカトさんの絵もとても素敵でお気に入りの1冊です。2018/01/12
ごはん
27
女物の下着をつけてストッキングを履き、口紅をひいた自分を鏡に映して問いかけてみると、からだの奥深くから言葉が溢れてきた。どうして女装がしたいのか。トランスセクシャル、ヘルマフロディテ、フェミニロ、カストラート。一致しないこころとからだ。過去に遡って起源を調べ、話を聞き、物語を紡ぎだすことで、その答えを導きだすことができるだろうか。真実ではなく、真実だと感じさせてくれる途方もないおとぎばなし。この先、どんなお話が展開していくのだろうかと思わせる書きだしの一文がとても印象的。山本タカト氏の装画が素敵。2009/07/26
柊渚
25
鏡に映る青年の笑顔に亀裂が走り、冷やかな女の表情に変わった。彼女の瞳は、闇よりも暗く、淫らで、吐き気がする。かつて自分を裏切った女が鏡の中にいた。生と死が濃密に混ざり合う町を背景に繰り広げられる、耽美で官能的な物語。たとえ誰かが創りあげた、途方もないおとぎばなしだとしても、それはたしかに真実だった。男でも女でもないからだに生まれ、愛し愛されることを諦めていたあの子が、そのからだごと自分のことを愛せますように。心の底から笑える日が来ますように。そんな慈しみが込められた優しい物語でした。2022/03/02
藤月はな(灯れ松明の火)
22
とても痛切で切なくてしかし、優しいまなざしを持っている美しき作品という印象を受けました。性別が未だに区別されている世界では性の狭間に存在する人の苦悩に胸がきりきりと絞られながらもそれを受け止める人々のつながりにほろりと涙ぐんでしまいました。シルビオの紡いだ互いの体温に恋し、求め合ったものたちの官能的でしかし、美しさのある物語にも陶然としてしまいました。2010/11/17
魔魔男爵
21
本書のベストセリフ「裏切り者は存在しない。きみを裏切ることができるのは、きみだけだ。私は私であることを喜び、人生に感謝している。大切なのはそれだけだ」ジェンダーを超越し自己を確立する素晴しい物語。耽美系だが文章は平易でサクサク読めます。801ネタは実は無い!男性でも抵抗無く読めます。主人公がゼータ教授にオカマ掘られる事を期待した腐女子の皆さん残念でしたw。ゼータガンダムやゼータ関数のファンの人も必読。全てを包む優しい数はルートではなくてゼータざんす。2009/10/08
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