内容説明
木と結婚する娘たち、前世が木であった男。極寒のシベリアを行軍する旧日本兵の松の木。蕾の開花支度に精を出すリラの娘。人間の葬式にやってきた老樹たち。樹と人にまつわる不思議な物語を編んだ連作短編集。
著者等紹介
村田喜代子[ムラタキヨコ]
1945年、福岡県北九州市生まれ。87年『鍋の中』で第97回芥川賞を受賞。90年『白い山』で女流文学賞、98年『望潮』で川端康成文学賞、99年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、14年『ゆうじょこう』で読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ikutan
74
人間よりうーんと長生きする樹木の視点で描いた、樹木が主人公の不思議な短編集。いやぁこの奇想天外な発想、面白くて好き。古くからの人間と樹木の関わりや樹木から視た人間の営み。結婚や弔い。命を生み、育み、生活し、土に返る。森林組合長の通夜の席に連れだってやって来る、クスノキ、タラヨウ、ビャクシン、大王クスのお話が一番面白かった。知らない樹木はその場で検索。画像でイメージ。確かにウェルウィッチアってグロテスクだわ!一つ一つの物語が短く、文字も大きいのでとても読やすいです。ただ、好みが分かれる作品かもしれませんね。2016/10/08
(C17H26O4)
69
辛口です。 不思議な印象。あっさりしすぎで物足りなかった。絵と文もちぐはぐに思えた。人よりも長い時間を生き続けてきた樹々が思考し、会話をするならば、もう少し深みのあるものなのでは、と勝手に想像したからだろうか。思考や会話は淡々と乾いていながらも妙に生々しく、だけれど達観している感じもあって、アンバランス。逆に達観しているから淡々としているのだろうか。それでも樹木の持つ秘めたエネルギーのようなものは伝わってきて、だんだんこちらの気力を吸い取られていたみたいで。妙に疲れた。2019/04/07
mii22.
51
村田喜代子作品初読。帯の紹介文通り「人と樹が織りなす不思議な魂の物語」で18篇どれも良かった。荘厳だったり、可憐で情熱的であったり..木や花と人間がお互いを見つめるまなざしの優しさ、厳しさ、温かさに心惹かれた。特にお気に入りは、長い年月砂漠で生き物の生死を見つめ続けたサバンナ・アカシヤの語り「孤独のレッスン」、シマサルスベリと人間の若い男とのラブストーリー「逢いに来る男」、祖母のはじめの夫はオークの木だったというお話「女たちのオークの木」、こんな夫婦の会話ができたらいいなぁと思えた「深い夜の木」。2017/06/10
なゆ
40
地球上に点在する樹木たちのつぶやき18編。物言わぬと思っていた木々たちが、こんな風に会話したり、絵本さながらに鳥やサルたちとおしゃべりしていたらと思うと、とても楽しい。そして、人間なんかよりもはるかに長い時間そびえ立ち続け、土地の営みを眺め続ける大樹の話や砂漠の孤独の木にはロマンを感じる。木々から見ると人間なんてちょこまか忙しない生き物なんだろう。サバンナ・アカシヤ、バオバブ、ポプラ、スギやクス、そしてリラの小さい手たち。読み終わると、庭木に話しかけたくなる。いや、もともと木はそういう存在だったか。2017/05/31
しゃが
39
樹も人も営んでいる不思議な物語。民話や寓話を読むような、あるいは宮沢賢治を読むような短篇集でたのしめた。挿絵も効いていた。ラスト作品「深い夜の木」の夫婦は村田さんらしく面白かった。極寒のシベリアを行軍する旧日本兵の松の木の「さすらう松」は哀切だった。人間の葬式にやってきた老樹たちの「とむらいの木」はフクシマの永い時を経て、人の営みと生きてきた樹々たちは今どう声をだしているのだろうかと思いを馳せた。私は「燃える木」の最後になりたい、<この世は空空漠漠だ…>と。2016/11/13