感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
泉のエクセリオン
6
ゲーテが60年もの歳月をかけて完成させた、まさにライフワークというべき作品。「己の自我を宇宙にまで拡大する」という尊大な野望を満たすため悪魔メフィストと契約し、世界を遍歴するが、結局ファウストがたどり着く真理は「自由な土地で、自由な民と共に生きていきたい」という願望だった。ファウストが契約満了の言葉である「時よ止まれ、お前は本当に美しい」を発するのは「自分のために生きる」という時ではなく、「誰かと共に生きていきたい、誰かのために生きていきたい」そう思う瞬間だった。これは如何にもゲーテらしいと思った。2024/12/24
twinsun
6
グレートヒェンの祈りによりファウストが昇天するさまはシベリアでのラスコーリニコフと彼を見守るソーニャ(「罪と罰」)を思い起こさせた。探究に絶望しながらも時空と財をわがものとし享楽の中でなおも真理に希望を持ち続け死に至るファウストとシベリアの凍土で再生の時を待つラスコーリニコフ。ともに聖女で光への道を歩む。共に!と言う声が聞こえるようだ。2022/09/17
tieckP(ティークP)
6
ファウスト自体は再読。そのときは筑摩の大山訳で読んだんだけど、その訳の良し悪しを判断できるほど当時は古典の知識も無ければゲーテについても疎かった。この山下訳は非常に読みやすいし、トーンを幾つか使い分けているのも感じる。注釈も、とりわけ節全体につけられて場面を説明しているものは有用で、以前は字面をなぞっただけの部分もしっかり内容を堪能できた。本としての値段も安いので、出版社名に抵抗がなければ十分お勧めできる。それにしても『ファウスト』という作品にはゲーテがすべて詰まっていて、読むのに苦労するけど素晴らしい。2013/09/21
泉のエクセリオン
4
「ファウスト」再読。訳の読みやすさは、人文書院の大山定一訳に次いで二番目に読みやすいと思う。膨大な訳注も整理されていて読みやすい。解説も、すごいあっさりしている。ただ、個人的に気になったのはファウストの契約の言葉「時よ止まれ」が今回は「時よ、留まれ」になっていた点。個人的な感性の問題かな。何回も読んでいるけど、個人の可能性としての人生を、限界まで生き切ったファウストには感動してしまう。 2016/02/20