感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
98
表紙の写真はココ・カピタン「NAÏVY」から「DEEPEST JUMP TO BLUE」著者が精神疾患を抱える母親をケアしてきた日々を振り返りながらよく見ていた写真。出産して母となった著者は、今は要介護2に回復したその母にケアのお返しをしてもらっている。ヤングケアラーという当事者は、表に出たくないのかもしれない。それを活字化することは「自分の物語を錨にして、心のなかの混沌に耐えている」ことで保っている自分のバランスを失うことになるのだ。内藤礼の水滴の作品のように、ほどけて、つながり、流されていくのである。2024/04/06
どんぐり
85
医学書院の〈シリーズ ケアをひらく〉の一冊。ヤングケアラーの内なる声を綴った当事者の語り。著者は、若い頃から、躁うつ病の母親と過ごしてきた。身体的ケアに直接関わることがなかったことに、果たして自分がヤングケアラーといっていいのか、ケア当事者としての戸惑いや違和感が綴られている。母親の病に付き従うように、「母の具合の悪さや不安が、部屋のすみずみまで伸び縮みするように感じ、そのなかで時間も伸び縮みし、時計の針の音が妙に大きく、自分の鼓動のように感じる」→2024/02/04
ネギっ子gen
63
【「わたし」は可塑的で、可変的で、状況に浸透し、揺れるものだ】精神疾患を抱える家族に付き添うヤングケアラーの内的時間をめぐるドキュメント。強力推薦!<アンタッチャブルにすることでタブー視され、神格化もされる概念に冷静な認識を与えたい。新しい文脈を見出したい。誰も触れてこない問題の奥には、沈黙した、嫌、沈黙させられている無数の人がいる。煌々とした人工的な光のもとで、固着化した自己ばかり要求される現代社会において、変容していく「わたし」が受け入れられ、そのことによって少しでも楽になる人が増えますように>と。⇒2024/10/30
pohcho
54
ヤングケアラーというより精神を病んだ家族を持つ娘たちの本かな。二人の女性のインタビューがあり、かなこさんの話が印象的だった。周囲に助けを求めても通り一遍の対応しかしてしてもらえず、思いあまって症状のひどくなった母を入院させたら、気がつくと母がベッドに縛りつけられて叫んでいたという。世界の精神科病棟の約1/5が日本にあるそうで、その人権侵害ギリギリの医療が恐ろしいし、社会からネグレクトされ追い詰められる家族は本当につらいと思う。著者自身にも精神を病んだ母があり。後半は著者の心の奥を探っていくような内容だった2024/02/28
こばまり
46
書けないという状況がテーマになるのは、私小説やエッセイの世界だけかと思っていた。その労苦や献身を思えば致し方ないとも思うが、ともすればヤングケアラーは殉教者で、理解や支援は不要とのメッセージを受け取ってしまいかねない。2024/06/14