内容説明
マイケルはミセス・ペティグルーのくらす湿地の客車へ行くのが大好きだった。ペティグルーさんはロバや犬、ニワトリと亡き夫の愛した土地でひっそりとくらしていた。しかし、原子力発電所の建設計画がもちあがり、ペティグルーさんのくらしが脅かされていった。マイケルは「何事も変化しないことはない」ことを学んだ。輝かしい未来をうたった科学技術の粋を集めた発電所にも時は流れ…。あらゆることに感謝したいというぼくの思いは、ふっつり消えてしまった。―滝のように降る流れ星、生命に満ちあふれた湿地。その湿地が原子力発電所の建設予定地になったとき、マイケルは…。
著者等紹介
モーパーゴ,マイケル[モーパーゴ,マイケル][Morpurgo,Michael]
イギリスの児童文学作家。イギリスでウィットブレッド賞、スマーティーズ賞など数々の文学賞に輝いている
ベイリー,ピーター[ベイリー,ピーター][Bailey,Peter]
40年以上にわたって本の挿絵を描き続けているイラストレーター。フィリップ・プルマンをはじめ、現代有名作家の作品を数多く手がけてきた。同じくイラストレーターをしている妻と英国リバプールに暮らす
杉田七重[スギタナナエ]
東京生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
74
美しい自然を犠牲にして建てられた原発。だが、採算性や危険性を考慮して、原発は廃炉となった。これは、実際にイギリスであった話。美しい自然を犠牲にしてしまったことはとんでもないことだったが、利権や何やにとらわれていつまでも原発にしがみついている日本と違って、必要ないと分かったときにすっぱりとやめることに決めたイギリス政府の判断には心打たれる。美しい絵が訴えかけてくる自然の大切さ。こういった本が日本では作られないことにも強い悲しみを感じる。2018/12/04
ぶんこ
48
ロンドンの近くの小さな田舎の村はずれに住む1人住まいの女性と、怪我を治療してもらった縁で親しくなった男の子。女性は湿地帯の客車を住まいとして、犬たちとロバとで静かで誠実な日々をおくっていました。男の子はロバや犬たちとも自然の中で楽しみ、豊かな少年時代をおくっていたのですが・・原発建設で村が二分されます。いつの時代も大きな力には、どんなに理不尽とあっても屈するしかないのかと落ち込みました。常に経済優先のパワーには負ける庶民。愛する亡き夫との思い出が詰まった湿地帯での、穏やかな生活を全うさせてあげたかった。2020/08/14
けんとまん1007
34
イギリスでの実話を題材にした物語。人間の愚かさが、淡々とした文章で綴られている。もう、元には戻せない。今だけを声高に叫び、将来の子孫のことに、そのつけをまわすという、愚かなこと。ここで語られていること、原子力発電所の将来のことについては、本当に、触れようとしない政治家や官僚、財界人の何と多いことか。廃炉、その後、数百年にわたる負の遺産としてのことを考えると、自ずと、考えるべきことが明らかになる。それは、後戻りできないということなのだが。原子力発電所に限らず、いろいろなことにもあてはまる。2016/02/06
ちえ
28
原子力発電所の建設予定地はペティグルーさんと亡くなったのご主人との大切な場所、沢山の生き物の住まい。建設計画は町を二分する争いになるが、最後、発電所は作られる。大人になったマイケルが戻った時、発電所は廃炉になり処理は大きな問題になっていた。イギリス廃炉作業中の発電所の場所が描かれた地図が最後にある。読んだ日に福島原発でのトリチウム水処理公聴会のニュースがあった。希釈して海に排出することに強く反対する漁協者に対して「希釈し海に排出が経済的」という遠方から来ている学者。あまりの無神経さに怒りが収まらない。2018/08/30
とよぽん
24
モーパーゴの作品で、戦争のことを直接扱っていない物語を初めて読んだ。これは、原子力発電所に対する静かな怒りと悲しみの物語だ。終盤で「ねむるまち」の意味が分かった。ラストの「ヒバリはいつまでも鳴いていた」が象徴的。原題は「Singing for Mrs. Pettigrew」2019/06/24