内容説明
花鳥画の大御所にして国宝の閨秀画家が、ふと立ち寄った島根の老舗旅館でスケッチした画紙にしたためた「いさま まいる 李」の署名。その筆文字に、宿の主人は遠い記憶を呼び覚まされた。この言葉には、ある深淵な意味がこめられていたのだ…(表題作)。傑作幻想小説全八篇。
著者等紹介
赤江瀑[アカエバク]
1933年下関生まれ。日本大学演劇科出。1970年「ニジンスキーの手」で小説現代新人賞を受賞。74年「オイディプスの刃」で第1回角川小説賞を受賞。84年「海峡」「八雲が殺した」で第12回泉鏡花賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
64
全編京都を舞台にした短編集。著者の小説に登場する人物は基本的に何かを追い求める過剰な情念で満ち満ちている。京都もまた千二百年の人の業が凝って、それがそのまま闇になった感がある。その両者が合わさると、登場人物は人というよりむしろ鬼に近いような感じさえ受ける。そんな短編がこの本にはみっしり詰まっている。過剰な京ことばも、冒頭に置屋や宮仕え等という特殊な世界を挟む事によって自然に感じられるし。京都がある意味人工美で成り立っている都市なら、その人工性、作られた美を徹頭徹尾追求したような作品ばかりでした。2023/08/07
のぶぶん@今年は心を鍛えます
12
全編京都です。同じ関西とはいえ、やはり大阪と京都の言葉にはかなりの違いがあるなというのが最初の感想。しかもこの作品には伝統工芸、芸能、そして男女(とは限らんが)の愛憎の業みたいなのが様々な形で織り込まれておりました。読友さんのおススメのとおり、文章はきれいです。内容と相まって、非日常の世界へいざなってくれます。合うか合わないか、はっきり分かれる作品かもしれませんが、やはり京都には、行きたくなります。僕の読むジャンルではないですが、決して嫌いではありませんでした。2012/03/15
八子@ちょっと復活
10
京都を舞台にした短編集。登場人物が京ことばを話すので、最初は誰が何を話しているのか、いつの話なのかなかなか分からず難儀した。しかし読んでいくうちに慣れてくる。たまに、これは昼メロかよ、みたいなものもあったのだが、美しい文章で紡がれる妖しい世界観によって、人間の狂気や愛憎を描いた話に昇華されているなあと思った。2012/12/31
莉玖
7
愛のお話。掲載の短編全て、最初から最後まで " 京ことば "。 だんだん慣れてきますが、やはり最初は読みづらい。2020/11/26
iuba
5
情念渦巻く京都の小径…立派な生け垣や風情のある軒先、どんな人が住んでいるのだろうというような広い庭のある屋敷。街歩きをしているとあちこちで見かける京都の風景の裏側にとぐろをまく、情念の渦。なにげなく通り過ぎる、こぎれいな「京都らしさ」がひた隠しにする秘密を覗いてしまったような気になる。ひとつひとつの作品としてはあまり際だった印象は残らなかったけれど、作品集としてみると粒ぞろいという雰囲気。2012/03/31