内容説明
筒井喬之助は捨て児だった。身許を知る手がかりとなるのは赤子の肌につけられていた錦の小袋だけだった。その内には、砂金と絵地図が入っていた。そして幾星霜。喬之助の数奇な運命の転機となったのは、天正十三年の豊臣秀吉の四国征討だった。秀吉の大軍は馬蹄をとどろかせて、ここ阿波国の深山祖谷の地に攻め込んできた。迎え討つのは、その名も高い祖谷山岳党―。波瀾万丈、著者会心の長篇伝奇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
goro@80.7
51
秀吉の四国制定を任じられた蜂須賀家正に取り入り一人己の野望を果たすべく祖谷山麓に乗り込んでくる妖艶な小野寺喜平。山奥深く木地師に育てられた喬之助。祖谷の名主たちは喜平に手玉に取られ祖谷山は血に染まって行くのだ。喬之助が持つ錦の小袋の秘密とは何か?安徳帝は四国へ逃れたのか。どちらかといえば喜平より喬之助の出番が少ないのが惜しいなぁ。しかし白石一郎は伝奇ものもあると分かって嬉しい。次は未完に終わっているSF伝奇ものに進みたいと思います。この未完の作品を息子が完成させるとの噂もあり楽しみ。2021/04/28
TheWho
12
時は戦国末期の安土桃山の天正年間、四国征伐後に阿波国(徳島県)に入部した蜂須賀氏と、美馬郡祖谷山・那賀郡仁宇谷・名西郡大栗山などの土豪である阿波山岳党との支配権をめぐる戦い、所謂祖谷山一揆と安徳天皇伝説や平家財宝伝説を題材にした歴史伝奇物語。本著は、昭和63年に刊行され、著者が直木賞受賞後の第1作で、海を題材にする著者が、山の民を描いた異色作でもある。実力主義の戦国期に家係伝説に寄る阿波山岳党の面々が時代の大きなうねりに翻弄される悲哀を象徴する秀作です。2019/11/11
Kazehikanai
11
30年前の今となっては無名の時代小説は、作家の直木賞受賞後第一作の長編小説。秀吉の四国征伐の時代、阿波の山岳の土着勢力、高貴な血をひく孤児、平家の隠した財宝、妖術使いの暗躍など、伝奇時代小説のコクがたっぷり。娯楽小説と軽く見ることもできるが、良くできたストーリーでたっぷり楽しんだ。白石一郎が亡くなってちょうど16年。本屋の棚に作品が並んでいるのも見なくなった。今となっては、こういう物語を描ける人も少ない。2020/08/26
hisayparrish
1
秀吉の四国平定で阿波の大名となった蜂須賀家政に対抗する祖谷の阿波山岳党。近くの豪族の小野寺喜内は、蜂須賀の討伐隊を全滅させて山岳党の信用を得、同時に家政にも取り入り祖谷山平定使を受任して平家の隠した伝説の秘宝を狙う。主人公は、高貴の出ながら棄て児となり木地師に育てられた筒井喬之助だが、その描写はあまり多くない。土佐の山岳党や、平島公方、その娘桜女、秘宝のありかが記された4つの錦の小袋の中の紙片、飯綱の法など、登場人物や仕掛けは盛り沢山だが十分消化されていない。もっと面白くできただろうにという感じがあった。2021/09/08
アニータ
1
図書館にて。同じ作者さんの「十時半睡事件帖」が結構好きなので、手に取った1冊です。十時半睡とはずいぶん雰囲気が違いますが、秀吉が四国平定に乗り出したときに抵抗した祖谷山岳党たちの戦いを描いた作品です。当初は一致団結して巨大な敵に当たっていた祖谷の名主たちですが、ある男の奸計により分断され、一族同士で血をみるようなことにもなり、一部の名主は処刑までされてしまいます。木地師の頭領・大山主はとてつもない技と力をもっていそうですが、里の争いには手を貸さないところがもどかしく、それでも1日で読み切りました。2021/02/04