内容説明
不世出の絵師・河鍋暁斎の娘とよは暁翠の画号をもつ女絵師。父亡き後、仲がよいとは言えぬ腹違いの兄・周三郎(暁雲)と共に、洋画旋風の中、狩野派由来の父の画風を守ろうとする。明治大正の激動の時代、家族の生活を担いつつ、絵師として母として、愚直に己の生を全うした女の一代記。第165回直木賞受賞作。
著者等紹介
澤田瞳子[サワダトウコ]
1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院博士課程(前期)修了。時代小説のアンソロジー編纂などを行い、2010年、『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年、同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で2012年、第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、同作品で2013年、第32回新田次郎文学賞受賞。2016年、『若冲』で第5回歴史時代作家クラブ賞作品賞と、第9回親鸞賞を受賞。2020年、『駆け入り寺』で第14回船橋聖一文学賞を受賞。2021年、『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
80
澤田瞳子? 初読み作家です。これが直木賞作と言うので読んでみたくなり図書館よりお借りした。江戸末期から明治にかけて活動した絵師・河鍋暁斎とその娘とよを描いた物語。「画鬼」と自称する暁斎は、仕事には厳格で「絵の上手下手で弟子を判断する」する師匠であった。当然、娘でも甘やかずに、何百人もの弟子と競わせた。まさに肉親の愛憎を遠慮容赦なく書いた力作です。そして、絵師の娘として生きるとよの生きざまと併行して描かれる、兄弟姉妹の「愛」に強く胸を打たれた。なお、とよの本心は「私が男に生まれていれば「絵」にもっと…。2025/02/12
クプクプ
78
河鍋暁斎の長女の河鍋暁翠(とよ)の話。私の知識で、わかるか、わからないかギリギリのレベルの読書で、スリルを味わって読みました。ニコライ堂や湯島、神田明神と、ところどころ理解できる描写もあり、今度、物語の舞台を再訪したい気分になりました。明治から大正にかけてを、リズムよく凝縮して描かれており、澤田瞳子さんの作品の中で一番の出来だと思いました。直木賞も納得です。今回、この作品を最後まで読み終えて自信をつけたので、これからも澤田瞳子さんの作品を読んでいきたいという決意を持ちました。2024/10/05
しげ
55
絵師として偉大な父を師匠に持つ子供達の葛藤と苦悩、宿命や呪縛を考えた時に先日亡くなった長嶋茂雄さんと一茂さん親子がまず浮かびます。一茂さんのプレッシャーは計り知れなかっただろう…と感じます。多様化、個人が尊重される時代になって久しいですがスパッと思考、発想を変えて活躍する一茂さん、本編の感想とは別にその逞しさに思い至る読書でした。2025/06/21
どぶねずみ
42
河鍋暁斎の娘、河鍋暁翠の話。河鍋暁斎の展示には何度か足を運び、河鍋暁斎記念美術館にも行ったことがあるので、以前から非常に興味深かった。『眩』と比較してしまうが、有名な絵師の娘はどこか共通する生き方をしているように思えた。親が人気の絵師や職人なら、それを継ぐというのは、自分の選択肢が狭まれる呪縛のように感じる。親が偉大であることに羨ましさを感じる一方で可哀想にも思う。親が亡くなったあとですら、心がずっと縛られて生きていく悲しい話だと思ったが、それでも暁翠を慕ってくれる者がいたのは救われたかもしれない。2025/01/14
エドワード
36
河鍋暁斎は幕末の絵師。奔放不羈、あらゆるものを描く、不世出の画家だ。暁斎の娘、明治元年生まれのとよこと河鍋暁翠の生きる道。文明開化の世に押し寄せる洋画の波、あれほどもてはやされた暁斎ですら過去の絵となる。父、異母兄・周三郎こと河鍋暁雲を喪い、最後の河鍋の名を守るとよ。奇想の画家といえども、暁斎の基本は狩野派だった。とよの絵はその基礎を継ぎ、逆風の中を走り続ける。兄の言葉「あの親父は、俺たちにゃ獄だ。」芸術の激しさ、厳しさを語る。離縁、戦争、震災、時に絶望しながらも一人娘を育てて絵を描くとよに胸打たれる。2024/05/17