内容説明
アパートで母親と暮らす亜沙。友だちも、金魚も、家族でさえも彼女の手からものを食べようとしない。「食べて、お願い」切なる願いから杉の木に転生した亜沙は、わりばしとなり、ある若者と出会った―(表題作)。他者との繋がりを希求する魂を描く、歪で不穏で美しい作品集。単行本未収録エッセイを増補。
著者等紹介
今村夏子[イマムラナツコ]
1980年、広島県生まれ。2010年、「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞してデビュー。「こちらあみ子」に改題した同作を収めた『こちらあみ子』で11年に三島由紀夫賞、17年に『あひる』で河合隼雄物語賞、『星の子』で野間文芸新人賞、19年に「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mae.dat
273
摩訶不思議過ぎて。表題作を含む、短篇3話+おまけの何か。先天的なのか、後天的なのか。社会には不適合なと言う言い方が適切では無いかもですが、生活困難な女性が主人公でね。独特の感性と価値観で、時間と空間を自由自在に駆け巡るよ。謎めいた恋の堕ち方には笑うしか無い。いや、一瞬笑ったけど、自身のコンプレックスをポジティブに理解して貰ったんだもの。そりゃ恋にも堕ちるね。自由律小説だなぁ。今村さん、いつもながらとんでもない物を生み落としておるよ。2023/10/26
かぷち
82
なんて感想を書いたら良いか、今村夏子さん不思議ワールド炸裂。「的になった七未」はここ1年で読んだ短編の中でも1番だった。ドッジボールでも車でも、何故か絶対に″当たらない″ 七未はいつか大人になり… 一人ぼっちだった少女、心と心が通じ合う瞬間なんて一度も無かったのだろう。人との接触を求める一方で、触れ合ったら何かが終わってしまう。漠然と追い求めている物、それは手に入らないからこそ夢なのだろう。一生懸命なのに周りからは理解されず、すれ違いばかり。ラストがとても切ない。村田沙耶香さんの解説もとても良かった。2023/11/08
エドワード
72
私はドッジボールが苦手だった。昭和40年代の小学校は、のどかだけど残酷で、体育の授業といい、休み時間といい、体力のある生徒の天国だった。給食の時間も苦手だった。好き嫌いのある生徒、食べるのが遅い生徒の悪夢だった。「木になった亜沙」「的になった七未」を読む私の顔はみるみる歪んでいく。自分のすくったものを食べてもらえない亜沙。ボールから逃げまわる七未。遠い記憶が蘇る。それでも生きている。今村夏子さんの描く少女の何とリアルなこと。絵本のようなファンタジーにして中和しているのだ。村田沙耶香さんの解説が絶品。2023/05/16
オーウェン
67
表紙のカラフルな絵からは想像できない展開を見せる表題作との2編。表題作は現生に嫌気が差し木に転生しようとする。その後も木からある物に転生するのだが、どこをどうしたらこういう発想に向かうのか。「的になった七未」当たりたいと願うがなぜか自分にだけ当ててくれなくて悩む七未。その後も成長していくが、自身が産んだ息子にも次第に会えなくなるが。正直2話ともトンでもな話だが、不思議と嫌悪感はしない。寧ろ七未の方は切ないがようやくという安堵感が広がっていく。このタッチは意外だったので、他作品が読みたくなる。2024/03/03
tomoko
42
家族や友達、金魚でさえも自分の手から物を食べてくれない表題作や、ドッヂボールでも何でも、決して当たることがない少女の話など、3つの短編&エッセイ。切実な悩み、苦しみからどうしたら開放されるのか?独特な世界観の中で感じるのは、懐かしさと何とも言えないもの哀しさ。そして予測不能な結末へ導かれる。でも、なぜかクセになる今村作品。解説は村田沙耶香さん。2023/05/09