出版社内容情報
備中の港町・笠岡の宿に九歳から奉公する志鶴。薄幸な少女は、おかみに見守られ逞しく成長する。歴史小説の名手、初の人情話連作集。
内容説明
かつて引き潮を待つ船の寄港地であった備中の港町・笠岡。「潮待ち宿」と呼ばれる宿の一つ、真なべ屋に、口減らしで九歳から奉公する志鶴はある日、口数の少ない目つきの鋭い客を迎える―。幕末から明治初期、薄幸の美しいおかみに守られ、次々と起こる事件に立ち向かい凛々しく成長する少女の六つの物語。
著者等紹介
伊東潤[イトウジュン]
1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。「国を蹴った男」(講談社)で第34回吉川英治文学新人賞を、「巨鯨の海」(光文社)で第4回山田風太郎賞と第1回高校生直木賞、「峠越え」(講談社)で第20回中山義秀文学賞、「義烈千秋 天狗党西へ」(新潮社)で第2回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)、「黒南風の海―加藤清正『文禄・慶長の役』異聞」(PHP研究所)で本屋が選ぶ時代小説大賞2011を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
エドワード
30
これは、待つ物語だ。幕末も押し迫った備前国、笠岡の旅人宿・真なべ屋で働く少女・志鶴がいた。笠岡は船人が引き潮を待って滞留した街だ。港の宿は、便船の到着を待ち、客を引く。志鶴を温かく見守る主人の伊都は倉敷の元娼妓で、言い交した男と足抜けに失敗し、投獄された男の迎えを待つ。河井継之助や、禁門の変で敗走する長州の志士も来て、風雲急を告げる世相を垣間見る。明治になり、伊都を肺咳で亡くした志鶴は一人で宿を守る。そこへ真なべ屋を別荘として買いたいという豪商が現れる。思案に暮れる志鶴。瀬戸内の夕日が美しい終幕。2023/10/01
ゆみ
13
9歳の頃実家の口減らしで笠岡の旅宿に連れて来られた志鶴は14歳になった。故郷を想って淋しかったけど、女主人の伊都は志鶴の事を我が子の様に大事に育ててくれている。ときは江戸末期から明治にかけて。佐吉親分や笠岡の人々、泊まり客みんな魅力的な人達。出逢いと別れハラハラする捕物劇。25歳の志鶴。35歳の志鶴。悲しい別れもあったけど最後は良い人と結ばれて良かった。愛する人と住む場所さえあれば、それが一番の幸せなんだと気付かされる素敵なラストシーンだった。2025/03/24
coldsurgeon
9
人情噺なのに、歴史小説のような趣がある。江戸末期から明治初期にかけてを描く、瀬戸内海の港町の商人宿が舞台の物語。主人公の志鶴という女性が、世情に揺れ動きながら成長する様は、どこかで応援したくなる。連作短編小説なのだが、ストーリー展開は意表を突くものがおおく、面白い。2022/06/05
とくま
6
×P302022/07/30
好奇心
5
伊東潤さんの作品にしては、静かな穏やかに流れる小説に思える、舞台は岡山県笠岡市、瀬戸内になる小さな港町である、幕政時代は天領だったようで、物資の流通地でそれなりに、宿・遊郭等があり栄えていたようである、宿真なべ屋を営む女将・伊都と使用人・志鶴を中心に幕末から明治と静かに流れる時代、明治期なり志鶴が宿を引き継ぎ、新しい時代に入る、街は衰退し、宿の存在も不要になるが、警官の市之進と夫婦になる伊都の叶わなかった小さな幸福を実現した志鶴 潮待ちの宿の題名にふさわしい、穏やかな物語であった いい癒しになりました2022/04/27