内容説明
離婚して働きながら一人娘を育てる梨愛。横暴で厳格だった在日一世の父は、親戚にも家族にも疎まれながら死んだ。しかし、通夜では見知らぬ人たちが父の死を悼み、涙を流していた。父はいったい何者だったのか。遺品の中から出てきた古びたノートには想像を絶する半生が記されていた。新しい在日文学の傑作!
著者等紹介
深沢潮[フカザワウシオ]
東京都生まれ。2012年「金江のおばさん」で第11回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞を受賞。受賞作を含む『ハンサラン 愛する人びと』(文庫版は『縁を結うひと』に改題)でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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fwhd8325
68
新潮社の件で深沢潮さんのことを思い出しました。以前「乳房のくにで」を読んでいますが、もう少し、今回の問題に関わる作品を読みたいと主いました。小説ではあるけれど限りなく事実に近いものであるように感じます。主人公である父の姿が明らかになるにつれて、韓国の、日本との様々な歴史が浮かび上がってきます。とかく日韓の問題として取り上げられることが多い両国の関係ですが、この作品はそれに固執することなく、ある意味バランス感覚に優れた作品だと思いました。2025/08/17
たまきら
28
備忘録:韓国人の友人・在日1世~3世の友人たちと話していて感じるのは、当然だけれど自分のアイデンティとの向き合い方は本当にまちまちだし、変化していくということ。韓国人と理想に燃えて結婚し、日本を上回るような男尊女卑に疲れ果てている友人がいるので、友人と話しているような現実感を感じつつ読みました。本当は、日本だってかなりの多様な社会だということに、いいかげん日本は気づき、そのことを喜ぶべきだと思う。2021/07/23
なおみ703♪
26
『パチンコ』を読んでからのこの本。読後感が温かい。韓国の音楽やメディア番組が日本に非常に人気がある一方で、在日韓国人への日本人の目は時に厳しく、差別と偏見に満ちている。この本は、恨みをつらつら書いているのではないが、在日韓国人の苦しみが伝わる。そして、1世と2世とでかなり考え方も異なることが切なくなる。父の死を通して、父に別の側面があったこと、それを知ることで家族の絆が深まるということ、その設定も心に沁みた。読後、このタイトルがピッタリだとも思った。決して息苦しい話ではないので、多くの人におすすめしたい。2022/01/25
ツキノ
23
「父が死んだ。」で始まる物語。引き込まれて一気に読んだ。横暴で厳格、韓国の食やしきたりにうるさかった在日一世の父。日本で暮らして日本人の中で生きているのに日本人との結婚を反対された兄の鐘明。韓国生まれの韓国人と離婚した梨愛の視点で描かれているが、メインは死後見つかったノートに記された、家族が知らなかった父の壮絶な半生。著者の深沢潮さんは「大学生くらいまで自分が在日韓国人であることをひた隠しにしていた、この小説を書くことは、かつて否定していた自分のルーツに向き合う時間でもありました」と語っていたとのこと。2021/07/01
智哉
18
衝撃的な密航船事故に始まり、混乱の朝鮮情勢に翻弄される。同情したくもなるが、民主化運動に傾注するあまり、容淑やオモニを悲しませたのは残念。家族を支えたと言えるのは、身を粉にして鐘明の医療費を稼いだことくらいか。2024/10/05