内容説明
スペイン風邪が猛威をふるった100年前。作家の菊池寛は恰幅が良くて丈夫に見えるが、実は人一倍体が弱かった。そこでうがいやマスクで感染予防を徹底。その様子はコロナ禍の現在となんら変わらない。スペイン風邪流行下の実体験をもとに描かれた短編「マスク」ほか8篇、心のひだを丹念に描き出す傑作小説集。
著者等紹介
菊池寛[キクチカン]
明治21(1888)年、香川県高松市に生れる。一高中退後、大正2(1913)年、京都帝大英文科に入学。第三次、第四次『新思潮』に参加、文壇にデビューする。大正12年には『文藝春秋』を創刊した。昭和10(1935)年、芥川賞、直木賞を創設し、後進の育成にも努力を惜しまなかった。11年、文芸家協会初代会長となる。23年、狭心症にて59歳で急逝(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ehirano1
85
表題作について。「不快に感じるのは強者に対する弱者の反感」を感じたとの件はまさにルサンチマン。立場や状況が変わればルサンチマンってのはいつでも顕在化するということが改めてわかりました。2023/03/21
keroppi
84
「スペイン風邪をめぐる小説集」とあるが、スペイン風邪を描いた小説は少しだけ。人の生死を描いた短編集というところか。表題作の「マスク」は、今の時代の小説といっていいくらい。100年たっても予防は同じなんですね。「病気を怖れて伝染の危険を絶対に避けると云う方が、文明人としての勇気だよ。」きちんと対策していない方々にも伝えたい。それ以外の作品では、自死を取り上げた作品が印象的だった。現在のコロナの片側では、自死も確実に増えているという悲しさ。2021/01/13
seacalf
72
ご時世に合わせてユニークな編み方をした短編集。100年前のスペイン風邪の猛威に怯える作家先生のお話から、幾つか流行り病に関わる短編が続いたかと思えば、全然関係ない時代小説な短編も収録。でも、どれもこれも面白いものだから、あれよあれよと読んでしまう。頁数は少ないながら、菊池寛の良いとこ取りが出来てお得な気分。表題作の『マスク』はもちろん興味深くて面白いが、意外なストーリーの『身投げ救助業』が個人的に良かった。こうして読みやすい形で菊池寛の作品を手元に届けてくれるのは、ありがたいこと。お見事ね、文藝春秋さん。2021/06/10
kei302
56
半額セール。インパクトのある表紙。帯を外すと、マスクも外れる仕掛け。解説は仏でロックダウン経験者の辻仁成氏。 曰く:「ペスト」との比較は難しいけれど、むしろ日本人には「ペスト」以上に思い当たることが満載 だそうで、期待が高まるのですが、「マスク」は掌編。でも、病気小説が続きます。時代小説がおもしろかった。さすが菊池先生です。心の機微の描き方が細やかで巧いなぁ。2021/05/19
たまきら
45
人間ってそんなに変わらないんだよなあ…と思いつつ、教育とメディアがもたらす情報がいかに人々の行動に影響を与えるかにちょっと脅威を覚える読後感です(マスク)。他の短編集は自分がイメージする菊池寛(わかりやすく、その時代に一番求められるものがわかっている権威とケンカしない人)といった感じです。2022/12/23