出版社内容情報
第七回歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞作。
江戸っ子に人気を博した浮世絵。絵が好きで、絵を描くこと以外なにもできない絵師たちが、幕末から明治へと大きく時代が変わる中、西欧化の波に流され苦闘しながらも絵を描き続ける姿を描く長篇小説。
文久元年(1861)春。大絵師・歌川国芳が死んだ。国芳の弟子である芳藤は、国芳の娘たちに代わって葬儀を取り仕切ることになり、弟弟子の月岡芳年、落合芳幾、かつては一門だった河鍋狂斎(暁斎)に手伝わせ無事に葬儀を済ませた。そこへ馴染みの版元・樋口屋がやってきて、国芳の追善絵を企画するから、絵師を誰にするかは一門で決めてくれ、と言われる。若頭のような立場の芳藤が引き受けるべきだと樋口屋は口を添えたが、暁斎に「あんたの絵には華がない」と言われ、愕然とする――。
人徳はあるが、才能のなさを誰よりも痛感している芳藤。
才能に恵まれながら神経症気味の自分をもてあましていた芳年。
時代を敏感に察知し新しいものを取り入れるセンスがありながら、己の才に溺れた芳幾。〝画工〟ではなく〝アーティスト〟たらんとした暁斎。
4人の個性的な絵師たちを通して、死ぬまで絵筆をとろうとする絵師の執念と矜持に迫る力作。
解説・岡崎琢磨
内容説明
歌川芳藤・芳年・芳幾・暁斎ら個性溢れる絵師が、幕末から明治の西欧化の波に抗いながら苦闘する。絵師の矜持と執念に迫る傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
冬見
13
芳藤の絵に出会ったのは数年前、展覧会の片隅だった。おもちゃ絵はその性質上、消耗品である浮世絵のなかでも特に残りにくいという。展示されていたおもちゃ絵も、今はもう組み方がわらないと解説が添えられていた。終わりゆく斜陽の世界を浮世絵師たちはどう生きていったのだろう。本書に手を伸ばしたきっかけはそんな興味からだった。芳藤の人生は決して順風満帆と言えないものだったのかもしれない。けど、それがなんだというのだろう。彼は絵師だ。絵師として生き、絵師として死んでいったのだ。それ以上の苦しみと幸福があるものか。2020/11/23
sin
6
kindle版。国芳没後の弟子たちの話。 河治和香の「ニッポンチ!」を読んだばかりで続いてこの本。国芳が好きでその流れから、弟子たちの絵も見てきたけれど 明治にはいってからの浮世絵は苦手。その時代に翻弄された絵師たち。芳藤の玩具絵、面白くて欲しかったけれど高くて・・。2021/06/15
まめの助
1
★★★☆☆歌川国芳の弟子、芳藤のお話。新人浮世絵師が手始めにやる仕事の玩具絵を生涯描き続けた芳藤。絵は見たことがあったが、名前は知らなかったので興味深く読了。幕末から明治への時代の変化、売れっ子の弟弟子たちへの複雑な思いや絵師としての思いなどがたくさん詰まっていて、せつない。頑張りが報われてよかった。2023/02/09
h_hukuro
1
時代の変化に流されることも抗うこともできず、周りの才能に圧倒されながらも筆を離さなかった、というよりも離せなかった芳藤。彼の地味ながらも歩み続けた先に胸が熱くなりました。2021/07/05
かわず
1
人生を大きく変えるかもしれない岐路に立った時、その律儀さ臆病さから芳藤は飛躍の機会や縁をやり過ごす。要領が悪くて不器用だけど、自分でそれを選んでいる節もある。同時代に筆をふるった綺羅星のような絵師たちを横目に見、葛藤を抱きつつも使い捨てられ省みられないおもちゃ絵を描き続けた芳藤。波風立たない人生でも空っぽではないと思うけどな。現に彼の名と絵は今も残っている。描き続けられるのも才能。絵師歌川芳藤の生き様に敬意を表する。2021/07/19