内容説明
1989年、新人刑事のローは凶悪犯罪捜査係に配属され、多くの犠牲者を出した九龍の銃撃戦の意外な黒幕を知ることになる―。60年代に文化大革命の煽りで始まった反英暴動、2010年代に起きた雨傘革命とも呼ばれる市民運動。香港を象徴する二つの“反政府の時代”が時空を越えて繋がる壮大な社会派ミステリー。
著者等紹介
陳浩基[チンコウキ]
1975年生まれ。香港中文大学計算機学科卒。台湾推理作家協会の海外会員。2009年「藍〓子的密室(青髭公の密室)」で第7回台湾推理作家協会賞を受賞。2011年に『遺忘・刑警』で第2回島田荘司推理小説賞を受賞、2012年に『世界を売った男』のタイトルで、文藝春秋から邦訳版が刊行。2014年、『13・67』が刊行と同時に大きな話題を呼び、2017年に邦訳版が出ると週刊文春ミステリーベスト10、本格ミステリ・ベスト10で第1位を獲得するなどランキングを席巻する
天野健太郎[アマノケンタロウ]
1971年愛知県三河生まれ。京都府立大学文学部国中文専攻卒。2000年より国立台湾師範大学国語中心へ留学。帰国後は台湾専門翻訳・通訳。2018年11月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
82
下巻で香港返還前に遡るわけですが、面白さが跳ね上がった感じ。とくに五話の誘拐の話は、謎解きのプロットに加え、香港で暮らす英国人家族の描写が秀逸だと思います。自分の趣味として、できあがった名探偵より、ルーキー感のある探偵の方が好きだからかも知れませんが。解説を読んで、そういえばコロナ前最後に行った出張が香港で、外出禁止になったなあ、というのを思い出しました。2021/07/26
ナミのママ
72
最後のセリフを読んで思わず最初の章を読み返した。舞台は香港、名探偵と呼ばれた刑事クワンが主人公。2013年から1967年まで6章で香港の歴史を遡るのだが、これが1話ずつ本格ミステリで濃厚。どの章からもクワンの推理が光るとともに政権に揺さぶられ市民の姿が浮き上がる。なるほどねー、若い頃から優秀だったんだねー、と読み進めたら最後にとんでもない仕掛けが待っていた。この作家さん『網内人』もそうだが最後まで息が抜けない。おすすめされた本、面白かった。2023/06/28
おたま
68
上下巻通して、6作の中編で構成された連作集。クワンという香港の警察官の一生を2013年に亡くなったときから、次第に遡り1967年にまで至る。各作品は、非常に巧緻に作られた本格ミステリーであり、クワンの推理が冴える(第1作だけは部下のローの活躍が)が、あまりにもクワンの推理ができすぎているような感じも受ける。ただ、最終話を読むと、何故彼がその後の彼になったのかが分かるし、逆に香港警察に突き付けられた問いというのも考えさせられる。本格派と社会派の融合というのも、最後まで読むとよく理解できる。衝撃的なラスト!2022/04/22
owarai
65
こりゃ、やられました。しばし放心後に悶絶です。そりゃ正直な話、読みにくいし取っ付き難いですよ。香港の地理や歴史にも疎いし、現地の人達の気質も分からない、感情の機微も捉えにくい。何より名前も覚えにくい。でもね、そんな事、どうでも良かったってなりますよ。最後まで読めば。ただでさえ、濃密過ぎる短編。謎を理解するだけでも、結構な労力ですが、そこは我慢。全て読めば、男の警察官としての矜恃が浮かび上がる。この感覚を味わう為に、香港史を遡る時間旅行へ。クワンよ、今までよく頑張った。香港の安寧を後世に託し、安らかに眠れ。2020/09/23
ざるこ
57
なんという幕切れ!と言っても過去に遡った最終話だから表現は間違ってる。上巻の1話目を再読して読み終えた。クワンが対峙してきた難事件を思い返しつつ。香港という地の複雑な歴史の中で警察の体制の変化やそれに伴う市民感情の揺れ動き、そこから発生する暴動やテロが克明に描かれクワンの鋭い推理が炸裂する。最終話のあの出来事から警察官という仕事にどう向き合ってきたか。1話目でローに伝えた言葉がとても重い。移り変わっていく情勢にクワンの信念がローへ、その部下へと受け継がれていくことを願う。推理も人間ドラマとしても重厚で◎!2020/09/26