出版社内容情報
連合赤軍の「あさま山荘」事件から四十年余。仲間内でのリンチ殺人から脱走し、人目を忍んで暮らす啓子に突然、過去が立ちはだかる。
内容説明
山岳ベースで行われた連合赤軍の「総括」と称する凄惨なリンチにより、十二人の仲間が次々に死んだ。アジトから逃げ出し、警察に逮捕されたメンバーの西田啓子は五年間の服役を終え、人目を忍んで慎ましく暮らしていた。しかし、ある日突然、元同志の熊谷から連絡が入り、決別したはずの過去に直面させられる。連合赤軍事件をめぐるもう一つの真実に「光」をあてた渾身の長編小説!
著者等紹介
桐野夏生[キリノナツオ]
1951年、金沢生まれ。成蹊大学法学部卒業。93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、『ナニカアル』で10年、11年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。1998年に日本推理作家協会賞を受賞した『OUT』で、2004年エドガー賞(Mystery Writers of America主催)の候補となった。2015年、紫綬褒章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
99
タイトルには二つの意味があるような気がする。仲間の死体を山岳アジトから運ぶために歩いた夜の谷。そして、歳月を重ねてなお、日の当たる場所を避け、暗い谷のような所で息をひそめて生きていくこと。理想に燃えた若者たちが行き着いた果てがなぜ凄惨なリンチだったのか。当事者以外わからないのかもしれない。それでも、旧来の女性観を持つ男たちに対峙しつつ、女たちは別の理想郷を目指していたというのはありそうな話。結末は少し唐突な感じがして桐野さんらしくない感じ。彼らと世代の近い桐野さん、ひょっとしたら迷いがあったのだろうか。2023/02/05
カブ
62
連合赤軍の元メンバー西田啓子は63歳。リンチによって12人の仲間を死に追いやり服役し、誰にも知られず人目を忍んで暮らしている。過去と決別したはずが、ルポライターの古市との接触で心にしまっていた秘密から解放される。極限状態でも女性は女性であること、それでもやってはいけないことがある。2020/09/11
Shoji
58
物語のプロットは、1971年から1972年にかけて連合赤軍が起こした「山岳ベース事件」です。総括と言う名のリンチ殺人事件から40年以上が経過し、所定の刑期を終えて社会復帰した人々が背負っている苦悩に焦点を当てています。全編を通して、ずしりと感じる重圧感が凄いです。ラストに少し明るさが残されていたのがせめてもの救いだと思いたいです。一気読みしました。2020/03/25
ピース
56
日本赤軍について少し勉強になった。彼らは最初の目的を見失ってしまったんだろうか。結局は何をしたいのか分からなくなって「総括」という名の暴力を奮って最終的には「あさま山荘事件」に至ったのか。話としては元「兵士」の啓子の40年後。忘れたはずの過去が近づいてくる。これは意図されたものだったんだろうか。最後はちょっと意外だった。2020/04/24
のんちゃん
56
東日本大震災の年、元連合赤軍の一員だった啓子は元同志から一本の電話を受ける。その年は連合赤軍大量リンチ殺人事件の首謀者永田洋子が獄死した年だった。そこから人目を忍んで生きてきた啓子は過去と向き合う事になる。事件当時まだ小学校低学年だった私は、その詳細を知らず、とても興味があった。日本変革を目指した組織が、なぜ殺人集団になってしまったのか?桐野作品は初読みだったが、とても読みやすく、すぐに読了。疑問の答が作品中にあったか否かは、読み手の想像力によるだろう。2020/04/10