出版社内容情報
八年の歳月をかけて創り上げた〈このあたり〉をめぐる物語。日本文学の最前線を牽引する作家が〈このあたり〉にあなたを連れていく。
内容説明
そこには、大統領もいて、小学校も地下シェルターもNHKもある。町の誰も行くことのない「スナック愛」、六人家族ばかりが住む団地の呪い、どうしても銅像になりたかった小学生。川上弘美が丹精込めて創りあげた、不穏で、温かな場所。どこにでもあるようで、どこにもない“このあたり”へようこそ。
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958(昭和33)年、東京都生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業。94年、「神様」で第1回パスカル短篇文学新人賞を受賞。96年、「蛇を踏む」で第115回芥川賞を受賞。01年、『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年、『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞、14年、『水声』で読売文学賞、16年、『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
250
長い小説ほどエラい、とおもってしまう傾向がある。でもこの掌篇は特別だ。ことばを適切に選び、極限まで削ぎ落とした世界は美しく詩的ですらある。時間と空間を凝縮し、文字の中に閉じ籠める。神話のようにあいまいで、昔話のように唐突で、落語のように滑稽で、SFのように壮大で、でもどこか懐かしくて、近い。すぐそばにありそうだけど、何だかちょっとズレている。描かれる〈このあたり〉は、ひょっとすると〈あの世〉なのかもしれない。異界は私たちのすぐそばに広がっている。たとえば、本を開けば手の届くほど近く、つまり、このあたりに。2021/01/16
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
180
昨日地球が爆発してひと晩自転したらまたいつもの町に戻っていた。おかあさんのちぎれた脚はぶじくっついて、私の飛び散った脳漿はきちんと脳におさめられた。私は昨日までの世界がもうどこにもいないことがかなしくて少しだけ泣いて、いまここにある地球はクーデターの準備に忙しいから私もいそいそと銃やら甲冑(おじいちゃんが家宝だから大切に、と言っていたやつ)やら揃えおく。なんだか遠足みたいでわくわくしてきて、お外で食べるお弁当を思うと今日はいい日だと思う。たとえ明日この町がなくとも、私たちの日常はどこまでも平穏だ。2019/12/05
馨
156
町の人達の短編集。子供目線で語られているのでどの大人たちや登場人物が読み始めは不気味過ぎて奇妙な町のイメージだったけど、読み進めるうちに何となく愛着が湧き出し、町の人達もなにげに仲良しだし、だんだん好きになっていく不思議な話でした。2022/07/16
ケンイチミズバ
137
一話が3~4ページもない短編で古川日出男氏のあとがきがいちばん長い。現実にありそうな光景も奇譚のような話も結びで笑いや戸惑いになる。子供の頃に見た聞いたあったことを基に想像力で膨らませた世界のようにも感じられ、懐かしさもある。どの話にも重なる登場人物がおり、話しが短か過ぎて先に登場した人を何度も戻って読み返すこともできます。「埋め部」の話はアルバイトが年賀状を配達するのが面倒になり、公園や海岸に埋めたというニュースが昔はよくあったなと、今は年賀状を書く人も減ってそういうことも無くなったのかな。なんて。2020/01/22
ふう
101
かなりおかしな人たちの住む町だけど、ぎすぎすしてなくて、まあそんなものかと受け入れれば案外住みやすい町かもしれません。町の人が行きたがらないスナック愛で、ママさんが歌う歌は昭和そのもの。わたしもよく歌いました。そのせいでしょうか。「このあたり」は何だかあの頃の「あのあたり」のようにも思えて、懐かしさを憶えました。2020/01/21