内容説明
会社の出向で移り住んだ岩手で、ただ一人心を許したのが同僚の日浅だった。ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。いつしか疎遠になった男のもうひとつの顔に、「あの日」以後触れることになるのだが―。芥川賞を受賞したデビュー作に、単行本未収録の二篇を収録した、暗い燦きを放つ三つの作品。
著者等紹介
沼田真佑[ヌマタシンスケ]
1978年北海道生まれ。西南学院大学卒業。「影裏」で第122回文學界新人賞、第157回芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夢追人009
362
沼田真佑さんの芥川賞受賞作のデビュー中編小説ですね。私は最初「かげうら」と読むのだと思っていまして「景浦」と言えばお馴染み「あぶさん」なのですがね。「えいり」と言えば「鋭利な刃物」しか思いつきません。やはり本の題名もインパクトが大事だという事ですね。関係ない事ばかり書くと怒られますが、文春文庫さんは怪談和尚といい200頁に満たない薄い本を出されるのは今時では珍しいと思いますね。昔は古本だと薄い本が値打ちがあるような事がありましたね。さて本題に入りますが、文学作品の解釈というのは本当に難しいなと思いますね。2021/12/02
散文の詞
165
特に、なにかあるわけでもないです。 釣り仲間の友人がいなくなって、それに震災が絡んでいるのかとその友人を探すのですが、 特に、何もありません。 タイトルに「影」があるのが、意味深で、多分そういうことなのだろうと思いました。 短編といってもいいくらいの小説だから、サラリと読めます。 2021/07/12
ケンイチミズバ
147
気づかないままラストまで読めば渓流釣りの雑誌に掲載された紀行文でも読んだ気分になったかも。釣りの友として友人を求めてるのではなく、周囲の男探しを冷やかすような口ぶりでピントきた。ゲイだったのかと。男が転職し、すれ違う苛立ち、ノルマのため別人のようになって働く彼に思いを抱いた純朴な姿が失われ、そしていよいよ震災による本当の行方不明なのか、多くの借金をしての失踪なのか、どれも気持ちの整理のつかない喪失だった。独り釣りをしている時の心象も、突然現れた男に対し素直に表現できない気持ちや苛立ちも表現としてはうまい。2019/10/21
かみぶくろ
102
「影裏」だけ再読だが、改めて、とてもデビュー作とは思えないクオリティだと思った。震災とマイノリティの孤独・倦怠と人間の不穏さが混ざり合い、明確になにを語るでもないのに、多くを感じさせてくれる。あとは精緻な文章が印象に残っていたが、筆の達者さは本作に収録の「廃屋の眺め」「陶片」からもうかがえる。ただこの二編は、なんというか昔ながらの「文学」の匂いが強く、けっこう好き嫌いが分かれそうな雰囲気。実力があるのは明らかなので、文学っぽい気分のときに、今後も読んでみたい。2019/09/24
佐島楓
79
硬質な文体で描き出される世界は、少し古風とも言える。しかし、扱っている題材は、まぎれもなく現代に生きる我々のもの。作を重ねるうちに、どんどん作品の幅が広がっているのがわかる。差し込まれる異常を異常とは思えないのは、登場人物がそれを受け容れているからであろう。こういうものこそ文学である。2019/10/02