内容説明
わしは、そのとき、蒼い炎を初めて見た。人を殺した者は蒼火を背負うというぞ―。江戸で相次ぐ商人殺し。彼らは皆、死の直前に間もなく大きな商いが出来そうだと周囲に話していた。まるで何かに憑かれたように凄まじい一太刀で人を殺め続ける男の正体を周乃介が追う。江戸の闇が艶かしく迫る大藪春彦賞受賞作。
著者等紹介
北重人[キタシゲト]
1948年、山形県酒田市生まれ。仲間とともに建築・都市環境計画の事務所を設立。長く、建築やまちづくりにかかわる。1999年、「超高層に懸かる月と、骨と」で第38回オール讀物推理小説新人賞を受賞。2004年、「夏の椿」(原題「天明、彦十店始末」)が松本清張賞の最終候補となり、同作品でデビュー。2007年、『蒼火』で第9回大藪春彦賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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はつばあば
34
今流行りの〇〇詐欺も、人の命が虫けらの如く殺(あや)められるのも江戸時代よりもっともっと以前から、人として生を受けた頃から変わりない。若いうちの些細な心のねじれが周乃介を脅かす。いつの世も、人の心に魔が住む。人を殺めた事は一生心の負担となる。江戸時代も半ばも過ぎた頃なら、死ぬというイメージがわかない武士も多くなったろう。今の自衛隊員や家族の人達も死のイメージは無いかもしれない。人を殺める戦争に移行しようとする政府、繊細な神経を持つ私達の心に蒼火が襲いかからないよう心の手綱をしっかり握って、政治に注視したい2015/06/20
荏田まめ
6
日本刀で人の体を切る。殺人を繰り返してしまう心の乾き、追い詰められ感を描いているが、日本刀の持つ魔力(爽快感)のようなものがあるのではないか?侍の命ともいわれるものであるが、片極端の捕らえ方なのか?内容としては、金がらみの悪代官+殺人鬼ですが、悪と正義(?)の対決の場に、複雑な日本人的な心の葛藤が、登場人物の行動の動機として描かれていて、読後感にやるせなさが残ります。主人公の一人の周乃介は、救われたのだろうか?2010/10/02
G❗️襄
5
主人公-立原周乃介も、誅敵-和田新兵衛も、剣による殺人経験者。“魔道の鬼”が取り憑き、人を斬った者にしか見えない『蒼火』が彼らには埋まっている。立会えば互いに『蒼火』が炎え上がるのだ。周乃介の手下、巳之次郎は“人斬り”を忌み嫌い「一人を斬るは、関わりの人々皆の心まで切り刻む事になるのだ」と憤る。 親しき人の突然の死は、深い悲しみと激烈な痛みに襲われ、心の傷と怨みは生涯に亘り残続する。人斬りの罪深さと、その陰にある心理の闇を丁寧に掘削、天明江戸が緻密に描かれた情景の中に、渾身の造形が拡がっていた。2025/04/09
キムチ
5
久方ぶりに(なんか、こればっか)ページをめくりつつ、ぞくっとする。唸った、上手いなぁ~。車内で読んでいると、降りる駅を忘れそう。読みながら聞くラジオを消すのも忘れる。ページから、蒼火が立つ。登場人物、峠の風の音、田畑を吹きわたる木枯らし、街を行きかう商人、屈託ない長屋のおばさんの笑い顔、剣を払った後の血なまぐさい臭気・・すべてがリアルに脳裏を走る。劇画の世界。構成も巧み、最後の頁まで、全く無駄がなく、「削げ切った」の文体。余韻も残しつつ・・。周乃介と市弥の会話に情趣がこぼれる・・2012/08/21
gachi_folk
5
「あっしは十手扱いの手伝いをしておりやすが、人はみな同じと思います。商人も辻芸の者も変わりはありませんや」と下っ引きの巳之次郎が言う。人の命が軽くなって来てる今、この作品に出会えて良かった。2012/06/15