内容説明
1946年から51年まで、沖縄はケーキ(景気)時代と呼ばれていた。誰もがこぞって密貿易にかかわる異様な時代。誰にも頼れないかわりに、才覚、度胸ひとつで大金をつかむことができた時代であった。彼らから「女親分」と呼ばれた夏子は、彼らの上に君臨したわけではない。貧しかったが夢のあった時代の象徴だった。十二年におよぶ丹念な取材で掘りおこされた、すべてが崩壊した沖縄の失意と傷跡のなかのどこか晴れ晴れとした空気。大宅壮一ノンフィクション賞に輝いた占領下の沖縄秘史。
目次
序章 五十年目の追憶
第1章 黄金の海に浮かぶ島
第2章 ヤマトへ
第3章 小さな商人
第4章 華僑のパートナー
第5章 八重山の「母」
第6章 香港商売
第7章 本部十人組の頭領
第8章 夏子逮捕
第9章 破船
第10章 夢の途上
終章 娘の回想
著者等紹介
奥野修司[オクノシュウジ]
1948年大阪府生まれ。立命館大学卒業。78年から南米で日系移民調査。帰国後、フリージャーナリストとして活動。長時間かけた丹念な取材により、『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で第37回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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遥かなる想い
168
第37回(2006年)大宅壮一ノンフィクション賞受賞。 沖縄が「ケーキ(景気)時代」と呼ぶ時代、終戦から6年間ほど、全員が密貿易に関わった時代。夏子という女性が凛と しており、終戦の混乱の 中でも、異彩を放っている 感じがする。38歳の若さで この世を去り、一切歴史の表には出てこない…そんな夏子の人生を 取材により、甦らせようとする著者の努力が文章から伝わって くる気がする。生き延びるためには 何でもする…海を股にかけて 躍動する…毅然とした夏子の 姿勢のようなものが全編から伝わってくる、そんな本だった。2014/01/05
禿童子
44
ほとんど文献資料が残されていない中で、関係者の聞き取り調査によって5年間の沖縄密貿易時代の花形である金城夏子の実相を解明する渾身のノンフィクション。戦前にフィリピンに渡り米国式の生活様式に親しみ現実的・合理的な考え方を身につけた糸満女性が、台湾から貨車1杯の砂糖を沖縄でさばき、娘の名をつけた開幸丸という密輸船によって香港と日本本土を結ぶ大がかりな貿易を展開する。闇物資には食品以外にもペニシリン、ストマイなどの医薬品、発動機などがある。違法ではあるが密貿易は敗戦国民の命をつなぐ必要悪だったのだと感じる。2021/05/17
kawa
40
終戦直後の沖縄で盛況の密輸貿易。その世界で女王と呼ばれたナツコを通じて密輸ビジネスを描くノンフィクション。米軍から盗みだした物資(戦利品と称する)や沖縄戦の武器の残骸を元手に、拠点の糸満から、石垣、与那国島・久部良(盛況ぶり凄かった)、台湾、香港、日本本土を粗末な船で命懸けで逞しく暴利ビジネスを展開の海人を活写。当時は本島と宮古、八重山分割統治で交易禁止。本土復帰主張者は米軍から共産主義者のレッテル張りも初知り。小説主人公としても魅力的なナツコ、フィクション交えて手に汗冒険小説、どなたかに…。2023/09/19
James Hayashi
37
戦後の沖縄を知る上で貴重な資料。丹念な取材で記録には残っていないものも掘り起こしている。玉砕後の沖縄、米軍下であり日本であって日本でなく、終戦前は本土より身近な台湾が日本の管轄下にあり、船の移動が当たり前であった事。情報源に近く、どこで何が高く売れるかを把握し、その入手源も得ていた事などにより密輸が当たり前に行われていたのであろう。性格と才能にも恵まれ男の扱いもこなれていたため莫大な利益を上げ人々の記憶に残った模様。個人的には時代背景や土地柄を考えるとごく当然なことの様に思え、続く→2018/05/05
B-Beat
36
◎昭和13年に22歳で結婚し二女に恵まれながらも夫が戦死。昭和20年12月に疎開先の台湾から戻り密貿易に従事。貿易が合法化されつつあった昭和29年8月逝去。享年38歳。まさに日中・太平洋戦争の勃発前後から中華人民共和国成立や朝鮮戦争、冷戦の始まりあたりまでの母であり実業家でもあったひとりの女性の生き様の記録。著者の執念が滲む。台湾から九州を島伝いであれば漁船でも行き来可能なこの海域における太古の時代から続く交易と冒険心。そんなスピリットが米軍の占領政策に風穴を開けたという事実。思わぬ収穫の一冊となった。2014/05/07