内容説明
人気シリーズ「鞍馬天狗」執筆の傍ら、『パリ燃ゆ』『天皇の世紀』などの歴史小説で冷徹なまなざしを歴史に注いだ著者が、革装の日記帳2冊に、昭和19年9月から翌20年10月まで、太平洋戦争の終局とその後を作家の日常のなかに冷静に書きとめていた。当時書かれた書簡、エッセイをあらたに加えた増補決定版。
目次
昭和十九年(九月;十月;十一月;十二月)
昭和二十年(正月;二月;三月;四月;五月;六月;七月;八月;九月;十月)
書簡
エッセイ
著者等紹介
大佛次郎[オサラギジロウ]
明治30(1897)年、横浜市生れ。本名・野尻清彦。長兄は英文学者の野尻抱影。大正10(1921)年、東京帝国大学政治学科を卒業後、鎌倉高等女学校(現・鎌倉女学院高等学校)教師となったが、翌年外務省条約局勤務(嘱託)に。13年、鎌倉の大仏の裏手に住んでいたことに由来する大佛次郎の筆名で、「隼の源次」、ついで「鞍馬天狗」シリーズ第一作「鬼面の老女」を発表、作家活動をはじめる。時代小説から現代小説、歴史小説、ノンフィクション、エッセイと幅広いテーマとスタイルで多くの作品を手がけた。昭和48(1973)年4月30日逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こばまり
56
物の値段、人の言動、流言等、意識的に記録してありとても興味深い。流行作家ゆえ有名無名問わず来客が多いが、昔の人は他者としっかり時間を掛けて対話していたのだなと感心する。苦労して方々へ疎開させた蔵書を横浜の大佛次郎記念館で確認したい。2021/08/07
松本直哉
20
被害軽微とのみ繰り返す大本営、それに山羊のように従順に従う国民。敗色濃い大戦末期の著者の描写はそのままいまのこの国にあてはまるかのようだ。著者の住む鎌倉はたまたま空襲から免れたもののそれも偶然に過ぎなかった。死を覚悟して蔵書を疎開させたり壕に家財を埋めたり。そんな日常の中でもトルストイを読み、連載小説を執筆し、訪ねてくる友人と酒を飲む。よく飲む。たくさん飲む。合成酒を飲んで悪酔いする。死と隣り合わせのなかの日常が却ってリアル。川端康成、小林秀雄、高見順、吉野秀雄ら鎌倉の同業者との交友も興味深い。2014/06/03
春ドーナツ
9
「だいぶつじろう」ではないことを知ったのは高校生の頃で、私の好奇心が「おさらぎさんだってわかったのだから一冊ぐらい読んでみよ」と言うので「ゆうれい船」を読んだ。幾星霜。単行本では「敗戦日記」だったのに、文庫化に際して改題された本を読むことになる。大佛さんは遺言で、全ての蔵書(3万冊)、原稿、愛蔵品等を横浜市に寄贈することを求めた。それら膨大なものから発見された二冊の日記帳を活字化したのが本書である。昭和19年9月から翌年の10月半ばまで大佛さんは日記を書いた。昭和20年8月辺りから私はそわそわし出した。2017/08/29
ブラックジャケット
4
昭和19年9月から昭和20年10月までの大佛次郎の日記。最も戦没者が多かった一年でもある。流行作家として当時では恵まれた環境で、情報も早く耳にした立場でもあった。国民の生活は窮迫し、丁寧に闇の物価を書き入れる。煙草、酒が通貨ともなる。生きることが精いっぱいの民心に忍び寄る頽廃に心を痛める。誇大戦果、過小被害、欺瞞し続ける大本営に憤怒の筆誅を加える。編集者や文壇仲間、あるいは市井の人々が頻繁に訪れ、噂話も拾っていく。人徳が人を寄せるのだろう。民間人視線を貫き、第一級の歴史資料となっている。 2017/08/19
Takehisa Matsuda
3
以前、ネットサーフィン中に『日本通』のブロガーの人とその周囲の人のやりとりの中で存在を知った。 大佛次郎自体名前だけは知っていた存在だった。 本作を読み進めるうち、第二次大戦末期の横浜・鎌倉をベースに大佛が観察してきた大日本帝国の破局の過程とその後しばらくの世情が、言葉を置き換えると2020年に始まったCOVID19パンデミックに於ける日本政府の無様な振る舞いと重なって見えてきた。 『アフターコロナ』を占うより先に『ノモンハンの夏』『インパール』と合わせて本作を読んでいただきたい。2021/01/14
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