出版社内容情報
失意の内にあっても誇りを失わない男たちよ。老刑事、国会議員の運転手、サラ金の取り立て屋が見据えた闇の底。歪みを抉る会心作
内容説明
「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。拍手は遠い。喝采とも無縁だ。めざすは密やかな達成感。克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です。深い余韻をご堪能ください。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
379
4つの短篇を収録。主人公はいずれも元刑事。最初の1話は定年退職だが、他の3話はそれぞれの事情から刑事を辞めて、新たな職場で働いている。これらは、個々の人物たちの物語ではあるが、同時に警察という組織を別の角度から眺める物語でもある。警察機構が特殊な構造を持ち、独特の論理で動いていることを、高村は作家的慧眼で描いてゆく。いずれの物語もある種の悲哀を帯びるが、あるいはそれは警察に限るものではないかもしれない。篇中では、表題作よりも「愁訴の花」が秀逸。あるいは「巡り逢う人びと」の哀しみをとる。2018/09/13
KAZOO
128
再読です。単行本で読んだときには短編5作が収められていたと思うのですが、やはり高村さん、文庫化するときにはかなり改定しておられ4作になっています。すべて元警察官(刑事)であった人物が、警備員、サラ金の取立てや、議員の運転手、守衛などの職業についているのですが刑事であったときの矜持を忘れずに以前の事件の核心に迫るというものです。最近の高村さんの小説は長編が多く、その人物についての周りから見た解説の様なものが多いのですがこのような短編の方が物語としては楽しめるような気がしました。2023/06/06
修一朗
77
久々の高村薫さん。短編集でも硬質かつ緻密で胃もたれするような重い文章が大好きで、しばし没入。今回描かれるのも不器用な生き方しかできない男たちだ。元刑事で、今は違う仕事に就いているのに「昔」が抜けない男たち。地どり一筋の刑事人生を虫になぞらえ、人に認められずとも自分の行動にささやかながら達成感を噛み締める「地を這う虫」がお気に入り。マイランキング1)地を這う虫2)父が来た道3)愁訴の花4)巡り会う人びと2014/12/27
鳳
76
深いい話の短編でした。元警察官の男たちのやるせない人間ドラマが、ジワジワと迫ってくる。警察を負われても、決して敗れざる人たちではないと思います。「地を這う虫」の省三さんには胸を熱くさせられました。2016/04/25
みも
55
約50頁の4編。全て元刑事の物語。自嘲・慙愧・痛恨・憤懣・焦燥・鬱屈・諦念。かつて刑事として築いていた矜持を棄てる事が出来ず、韜晦しつつ現状を甘受し冷然と単調な日々をやり過ごす男達の肖像。かつての彼らが、とりわけ優秀な刑事であった訳では無い。むしろ凡庸と言ってもいいだろう。その焦点の当て方が著者の秀でた着眼だろうか。但し、読後の印象はなんとも腑に落ちない。問いかけはあるものの、心は震えない。綿密な心情描写で、じわじわと人物像を浮き彫りにする手法の著者には、長編こそが真骨頂を発揮し得る表現方法なのだと思う。2017/04/26
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