内容説明
十年間堪え忍んだ夫との生活を捨て家政婦になった主婦。囚われた思いから抜け出して初めて見えた風景とは。表題作ほか、劇作家にファンレターを送り続ける生物教師の“恋”を描いた「虫卵の配列」、荒廃した庭に異常に魅かれる男を主人公にした「月下の楽園」など全六篇。魂の渇きと孤独を鋭く抉り出した短篇集。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
369
6つの作品からなる短篇集。コミカルなタッチで描かれる「ネオン」以外は、いずれもいささかの毒を含んでいる。作中では、やはり表題作の「錆びる心」が一頭地を抜くか。絹子の視点から語られていくが、その主観の確かさは夫の良幸、娘の葵、そして靖夫によって相対化されてゆく。絹子も最後はそれに気づかされるのだが、そこにあったのは不条理ともいうべき陥穽であった。この陥穽は「羊歯の庭」、「月下の楽園」にも同じように待ち構えていたのだが。次いで小説的な面白さを持つのは「虫卵の配列」だろう。種明かしめいた結末は蛇足だったが。2017/06/17
ミカママ
298
桐野さん、比較的初期短編集。当時の作風は、一言で言えば、キレッキレ。『羊歯の庭』の男に「ずるずるとだらしのないあなたに対する信頼感が、あたしの中からなくなっていく」。そういう男を今までイヤというほど見てきたわたしには、見事というよりほかない切り込みでした。小さな偶然と錯誤の連鎖から思いがけない惨劇を引き起こすプロセスを描かせたら、彼女の右に出る作家さんはいないでしょうね。2018/01/06
ehirano1
157
著者の短編に初挑戦。表題作が印象的でした。「何かを教えようとしていた」自分の心の中の真実に気付き、そしてそれは「他人だからこそできる」、というある意味“存在論”について触れられているように思えました(佐藤優的読み方?)。 で、最後の遠くで鳴っているクラクションは何の示唆? 2019/06/08
🅼🆈½ ユニス™
119
2019年の1作目。虫卵の配列、羊歯の庭、ジェイソン、月下の楽園、ネオン、錆びる心の6話で構成された短編集。桐野夏生さんの長編を堪能させて頂く前のアペタイザーのような作品として選んだ。人間が自分の想念に確信を持ち過ぎるとある意味恐ろしい結果を招くと言う、所謂、人間のダークサイドを描いた作品だが、深奥過ぎて私には合わなかったかな、テイスティングミス?でも、非常に読みやすい一冊ではあった。🧐2019/01/02
優希
104
毒を含んだ暗さが独特の雰囲気を出していました。短編集でありながら、長編を思わせる濃い作品が多い印象を受けます。孤独で乾いた魂の叫びが聞こえるような作品の数々。短編でも桐野ワールドは健在です。2017/07/07
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