出版社内容情報
歌麿の裏切りで苦境に立った蔦屋重三郎は、奇妙な画を描く老人に出会った。十ケ月後死んだ老人の遺品の中から驚くべきものが…
内容説明
蔦屋重三郎の父親は、重三郎七つのとき家を出た。それから三十年、「吉原細見」や歌麿の大首絵の版元として成功をおさめた蔦重だったが、歌麿の裏切りにあって苦境に立たされる。代役に起用して写楽と命名した老人の絵は大評判になったが、老人は病いを得て死ぬ。その写楽の遺品の中から意外なものが…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
31
花櫓から惹かれた江戸文化。そこに骨を埋めた、ある意味とち狂った人々。仲蔵繋がりでサクッと読めた。若い頃、杉本苑子、筆者を手当たり次第読んだ記憶が。完璧に忘れていたが、なぜか懐かしい感触。同世代のせいかも。何度も直木賞候補に挙がったがこれは脂が乗って行く時期の作品。140数点モノ作品を残して、つむじ風の如く消えた写楽。ある意味、ビジネスマンの蔦重がこれほどまでに熱を込めたのは骨肉があるから・・の推理で描いている。色子・陰間・夜鷹そして遊女。江戸期ならではの濃い性の世界と芸術との肉薄。脂粉と版木の香りが。2014/05/20
ドナルド@灯れ松明の火
18
杉本さんのデビュー長編。他の写楽本を読んでいたので堅苦しくなるかと思ったが、予想外の蔦屋重三郎生涯を描きながら、筆者の考える写楽の実態を描く。写楽本の中では一番かな。江戸時代の浮世絵や読み本の世界を緻密な裏付け・史実により描いて見せる。その後の杉本さんの文体や表現がすでに確立されていることに驚いた。お薦め2016/11/06
タツ フカガワ
17
今で言う出版界の風雲児蔦谷重三郎の一代記は、江戸の風景・風俗もリアルなら人の温もりが胸を打つ素晴らしい物語でした。史実とフィクションが絶妙に絡み合い、重三郎が出会う運命の女おしのや、長年探し回った末に出会う風変わりな画風の絵師治助(のちの写楽)との切ない縁(えにし)には思わず涙しました。2019/12/25
真理そら
9
再読。杉本さんの新作はもう読めないので、時々あれこれ再読している。写楽の正体の設定が面白い。この作品で描かれている蔦重の肉親的なものも含めての孤独感や繊細さ、色っぽさが好きだ。実在の人物を扱っているのに資料臭さがなく奔放な想像力の駆使が楽しい。2017/08/26
きょうこ
4
まさかの写楽正体。面白かった。歌麿がいやな奴だった…。2013/02/27