内容説明
ウィーン、ヴェネチア、サン・ドニ、ヴェローナ…。旅行者を魅了してやまない、数百年の歴史を誇るヨーロッパの古都市。だがそこはまた、星霜を重ねた魔物たちの棲み処でもあった。世界の裂け目から甘く人々を誘惑する魔物に囚われた旅人の運命は?夢と現実が交錯する、恐くていとおしい六つの幻想曲。
著者等紹介
高樹のぶ子[タカギノブコ]
1946年、山口県生まれ。84年「光抱く友よ」で芥川賞を受賞。95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2006年には『HOKKAI』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。05年より九州大学アジア総合政策センターの特任教授に就任。アジア各国の作品や作家との交流を通じてアジアを体感するSIA(サイア/Soaked in Asia)プロジェクトを立ち上げ、活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
81
面白かったです。現実と幻想の狭間に落ちていくようでした。ヨーロッパの古都市には魔物が棲みつき、妖しく美しい香りを漂わせています。細やかな言葉で紡がれた異国の風景に、気がつくと魔物の棲む世界へと足を踏み入れていました。密のように甘く、ドロリとした幻想小説集。恐ろしくて愛おしい世界が広がっているのを感じます。2016/04/04
メタボン
30
☆☆☆☆ キリスト教の世界観、秘蹟を題材に、ミステリアスに仕上げられた短編集。ヨーロッパの古い年から喚起されるイメージも相まって、そのファンタジーに酔った。聖母の気絶像に淫らな妄想を重ねる「日食のヴェローナ」サンドニの手に持たれた刎ねられた首からの視点「サン・ドニの二十秒」メルク修道院の壁画から抜け出た女を妻と言い張る老人「メルクの黄金畑」サンタンドレア教会イエスの血の奇蹟を求める双子の兄妹「マントヴァの血」うたかたの恋心中事件と盲目を免れた白馬「ゼーグロッテの白馬」友人が乗り移る「美加子のヴェネチア」。2021/06/14
ポメ子
7
ヨーロッパの6カ所を舞台にした幻想短編集。街の雰囲気は、感じる事が出来たが、物語自体が私には、難しかった。2022/07/22
takaichiro
7
仄暗い暗闇を力のない炎がゆらゆら蠢いている様な作品。内容が最初から最後まで鮮明とならず、でもどこかでエロスや一方でタナトス、生死のニオイまで漂う。大学生のころ早く大人になりたくて、夜遅くにジャズバーを訪ね、ワインカクテルを傾ける妖艶な女性に挑もうとする心理状態に似た感覚で読了した。2019/05/06
あ げ こ
4
魔物達が誘う、妖しく美しい幻想世界。生々しい性の匂いも、その世界に於いては魔性を帯びた甘やかな香りと化し、人々を魅了する。幻想世界との境目も曖昧に感じるほど美しい異国の風景。言葉をたっぷりと用いて細やかに描かれたそれは、魔物達の棲家である幻想世界の入り口として相応しい情緒を備えている。ドロリと甘い、蜜のように後を引く短編集。2013/10/26