出版社内容情報
西洋砲術家高島秋帆の庶子蘭次郎は勝海舟のいる海軍伝習所に入るが、西洋式捕鯨銃の開発をめざして漁師になる。海に憧れる野性的な一人の青年を描く青春時代小説
内容説明
砲術家・高島秋帆の庶子で、海に憧れる野性児蘭次郎は勝海舟の海軍伝習所に入所して航海術を学ぶが、五島沖で演習中、遭難して鯨組主に助けられたことから、近代的な捕鯨法の開発に情熱を注ぐ。幕末から維新にかけて、捕鯨の世界に生きがいを見出す若きサムライの姿をのびのびとした筆致で描く長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
goro@the_booby
53
この物語を読んでる時が楽しくて仕方ない。こんなにも面白い幕末物があったのかと読了後も嬉しくなった。蒸気船で魚を獲りたいと思う蘭次郎が勝麟太郎に出会い伝習所の雑役夫となり有川鯨組の組主代行になるまでの波瀾万丈の物語。榎本釜次郎、高杉晋作、グラバーや坂本龍馬との親交も鮮やかに時世が変わりゆく中、ひたすら捕鯨銃を求める蘭次郎。女子は苦手な蘭次郎であるが、羨ましすぎるだろ。昔ながらの鯨漁の描写が熱く、捕鯨銃で仕留める方法が残酷さを増す。白石一郎はもっと読まれて良い作家!本当に楽しかった!また読み返したい物語です。2021/04/04
AICHAN
43
図書館本。砲術家・高島秋帆の庶子の蘭次郎は長崎の海軍伝習所に入り、五島沖で演習中に遭難して鯨組主に助けられる。ここから捕鯨と関わりを持つようになり、西洋式捕鯨の導入に精魂を傾ける…。勝海舟、坂本竜馬、五代才助、高杉晋作等、幕末に活躍した志士たちが登場し、読み応えがあった。ただ、分厚い本なので、読んでも読んでも先に進まず、ちょっと疲れた。難しい漢字や専門用語が多く、ルビをふったり説明してほしかったという箇所が続き、その点でも読むのが大変だった。2021/04/20
エンリケ
36
海を舞台にした時代小説はやはりこの作者を白眉としたい。直木賞受賞作「海狼伝」に勝るとも劣らない一冊。幕末の長崎で育った蘭次郎の波乱に富んだ青春物語。歴史上のスター達も脇で登場しながら激動の時代がエキサイティングな筆致で描かれる。しかしストーリーは倒幕がテーマでは無くなんと捕鯨。蒸気船に乗った興奮から西洋式の漁に興味を持つ主人公。旧来の捕鯨は正に命がけの闘い。その描写は大迫力で読者に迫る。その犠牲を少しでも減らすべく、近代捕鯨導入に奔走する。捕鯨銃の開発。西洋式航行術の体得。当時の人々の向学心に改めて感嘆。2016/02/03
TheWho
14
幕末の砲術家の高島秋帆の庶子を主人公に、幕末動乱の波に翻弄されながらも近代的捕鯨法の確立の情熱を海を題材に歴史小説家が描く、幕末テクノクラート物語。高名な父と蘭人との混血児を母に持つ主人公が、オランダ船に救助された事がきっかけで、蒸気船で魚を採ると云う突飛な志を持ち、様々な人々の出会いや時代に変遷にに巻き込まれながら、捕鯨法の近代化に夢を見出し情熱を注ぎ成物する青春物語の様な爽快感を醸し出している。そして幕末風雲の情勢にも関わらず一途に技術や学問に没頭する人々を通して別視点の幕末史を堪能できる一冊です。2015/10/18
虫尾
6
幕末の激動期を横目で睨んだ青春小説。 言うなればスターを脇役にふんだんに据えた、ヒーローらしくない主人公の物語なのだが、これがなんとも爽やかに読ませる。 タイトルの「サムライ」は、「侍」ではなく「士」であったのかと、読んだそのあと納得させられる一冊。 2010/11/26