出版社内容情報
亡き父親の借財を抱えた大学生、井領哲之。彼の部屋の柱に釘づけにされた蜥蜴のキン。人生の苦悩と情熱を描いた青春文学の金字塔。
内容説明
亡き父の借財を抱えた大学生、井領哲之。大阪にあるホテルでのアルバイトに勤しむ彼の部屋には、釘で柱に打ちつけられても生きている蜥蜴の「キン」がいる―。可憐な恋人とともに、人生を真摯に生きようとする哲之の憂鬱や苦悩、そして情熱を一年の移ろいのなかにえがく、青春文学の輝かしい収穫。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
昭和22(1947)年、兵庫県に生れる。追手門学院大学文学部卒業。52年、「泥の河」で第13回太宰治賞を、翌53年、「螢川」で第78回芥川龍之介賞を受賞。62年には「優駿」で第21回吉川英治文学賞を、平成16年には「約束の冬」で第54回芸術選奨文部科学大臣賞を受ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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takaichiro
121
輝さんは最近のマイブーム。35歳当時の連載小説。市井の生活に光を当て、苦しくとも遮二無二に生きる男の心根とそれを支える人々の優しさ、細かな心理描写を丁寧にコツコツ積み上げる作品群に溺れる。バブル前の昭和50年代、日本人が自信を取り戻し始めた時期に書かれた本作。父の借財を抱えた哲之。大学に通いながらアルバイトで返済を試みるが額が多くてうまくいかない。陽子はイケメンからアプローチもあるが、ひたむきに生きる哲之を支える。それからマスコット的存在で、一年も釘に貫かれたままの蜥蜴のキン。その釘を抜いた時・・・2020/02/02
遥かなる想い
105
このころの宮本輝の描く世界には少し毒があった。不器用でひたむきな青春小説である。 2010/05/09
Tsuyoshi
82
父の遺した借金返済のためバイトに精を出す大学生の哲之が恋人の陽子と幸せを掴むまでの一年間の話。様々な苦悩や憂鬱に遭遇しながらも、彼の部屋で柱に打ち付けられたまま生き続ける蜥蜴のキンちゃんに自分を重ねていく哲之の姿はまさに「艱難汝を幸福にす」を絵にかいたような話だった。2018/07/21
ばりぼー
71
父親の借金返済に追われ、ホテルのボーイのアルバイトに励む大学生「心優しきエゴイスト」哲之と、その恋人陽子のすったもんだの一年間を描く青春小説。アパートの柱に釘で打ち付けられたまま生き続ける蜥蜴(キンちゃん)の存在が全てを物語っています。私も学生時代に大阪の老舗ホテルでルームサービスのバイトをやってましたので、おおいにノスタルジーに浸りました…。「人生が五十センチの長さのもんやとしたら、男と女のことなんて、たったの一センチくらいのもんやで。そやけど、その一センチがないと五十センチにはなりよれへん。」2016/04/20
chikara
63
20年振り位の再読でした。当時の感想が残っていれば面白かったけど、勇気を頂いたのは確かです。哲之・陽子がこの先も幸せであって欲しい。そしてキンが生きていて欲しい。歎異抄や輪廻転生といった宗教的背景も見逃せない。そこの解釈は人それぞれですが宮本氏の考え方が垣間見れた気がしました。2014/04/23