内容説明
瀬戸内海の貧しい島で生まれ、日本列島を隅から隅まで旅し、柳田国男以来最大の業績を上げた民俗学者・宮本常一。パトロンとして、宮本を生涯支え続けた財界人・渋沢敬三。対照的な二人の三十年に及ぶ交流を描き、宮本民俗学の輝かしい業績に改めて光を当てた傑作評伝。第28回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
目次
周防大島
護摩をのむ
渋沢家の方へ
廃嫡訴訟
恋文の束
偉大なるパトロン
父の童謡
大東亜の頃
悲劇の総裁
“ニコ没”の孤影
萩の花
八学会連合
対馬にて
土佐源氏の謎
角栄の弔辞
長い道
著者等紹介
佐野眞一[サノシンイチ]
1947(昭和22)年、東京に生まれる。早稲田大学文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。「戦後」と「現代」を映し出す意欲的なテーマに挑み続けている。97年、『旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
89
労作である。ただ残念ながら、私は民俗学というものがよくわからないのと、主人公が2人では焦点がややぼけるのもあって、入っていけなかった。 それにしても、渋沢栄一の孫である敬三は立派である。かつて芸術家のパトロンの理解のため、日本文化がどれだけ助かっていたのか、は理解できる。 2010/05/08
kaoru
81
民俗学者・宮本常吉と彼を後援した渋沢敬三の生涯を描く。貧しい家に生まれ苦労を重ねて日本各地を訪ね歩き、庶民の声を膨大な記録に残した宮本の功績は大きいが、彼を始め今西錦司など多くの学者を惜しみなく支援した渋沢も忘れ難い人物である。生物学者を目指すも祖父渋沢栄一の後継者として銀行マンになった敬三は、屈託を払うように学問のパトロンとなり、戦後は日銀総裁の重責を担う。既成アカデミズムの陰険さから新興の学問を守った彼の生涯は、妻に去られるなど決して平坦ではなかった。戦後の混乱から高度経済成長で失った多くのものに→2023/03/23
i-miya
46
(あとがき) 武蔵野美術大学の門弟。柳田の日本民俗学定義「日本という国土に既に生まれた、現存するもの、そして将来この国に生まれて来るものの為の学問」宮本は、その正統的継承者である。S40、ムサビ教授になるまで宮本は定収入の道を持たなかったことに親近感を覚える。H05暮れ、死んだ私の義父に酷似する人生。徳島県祖谷山出身、裕福、義父の父の代から没落。親戚たより大阪へ。モールス信号。頭まっしろ。渋沢敬三。岡正雄ら人文学者たちの生態を描いた。(1996.11)2011/06/21
あおでん@やさどく管理人
41
日本全国を歩いた距離は16万キロともいわれ、民俗学に多大な功績を残した宮本常一。周防大島の農家の生まれだった宮本と、彼を金銭的・人間的に支え続けた渋沢敬三(渋沢栄一の孫)の交流を描いたノンフィクション。宮本がこうした功績を残すことができたのは、彼生来の「人の話を聞きだす魅力」もあるが、戦前・戦中・戦後を通じて渋沢が宮本をアカデミック的にも政治・社会的にも「本流」に置かなかったことが大きかったのだと実感。2人の巨人の功績だけでなく、その裏にある人間的な苦しみまでを、緻密な取材から描き出している。2020/09/19
パトラッシュ
35
学問には金が要るが学者は貧乏で、金持ちは学問より自分の贅沢優先と相場は決まっている。学問を好む金持ちが貧乏学者を支援して見事な業績を生んだプロセスを宮本常一と渋沢敬三の伝記として描き出す。二人とも聖人君子ではなく家庭的には恵まれず軍の思惑と結びつく面もあったが、相互の信頼に基づいた理想的なパトロネージュは奇蹟ともいえる。旅した宮本と旅をさせた渋沢のどちらが欠けても日本の民俗学は痩せ細っていただろうし、宮本の著作に影響を受けた学者や文化人らの思想的発展もなかった。日本には稀な美しい人間の結びつきを堪能した。2020/05/10