内容説明
つましい月給暮らしの水田仙吉と軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長門倉修造との間の友情は、まるで神社の鳥居に並んだ一対の狛犬あ、うんのように親密なものであった。太平洋戦争をひかえた世相を背景に男の熱い友情と親友の妻への密かな思慕が織りなす市井の家族の情景を鮮やかに描いた著者唯一の長篇小説。
著者等紹介
向田邦子[ムコウダクニコ]
昭和4(1929)年東京生れ。実践女子専門学校国語科卒業。映画雑誌編集記者を経て放送作家となりラジオ・テレビで活躍。代表作に「だいこんの花」「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」「隣りの女」等がある。55年には初めての短篇小説「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で第83回直木賞を受賞し作家活動に入ったが、56年8月航空機事故で急逝
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三代目 びあだいまおう
241
読書仲間から「面白いよ」と拝領。向田作品初読にして、著者唯一の長編小説。戦前日本の男の友情と女性をめぐる葛藤を描く。つましく陽気な転勤族の仙吉、片や軍需景気で羽振りの良い金属会社社長の門倉は『あ·うん』の間柄。それは神社の鳥居に並ぶ一対の狛犬のよう!冒頭引っ越してくる仙吉のために風呂を炊いて待つ門倉の思いやりが光る。互いの妻や家族等も交え『男の友情』が瑞々しく生き生きと紡がれるのだが、作者は女性。そこは観察眼鋭い脚本家ならではか?美しく素敵に生きた女性ですね!曰く「神様に嫉妬された」不幸が残念です‼️🙇2019/02/16
さてさて
195
『あいつが帰ってくる。親友の水田仙吉が三年ぶりで四国の高松から東京へ帰ってくる』。『三年ぶりで四国の高松から東京へ帰って』きた仙吉を迎える門倉の姿が描かれていくこの作品。そこには、二人の友情に光を当てる物語が描かれていました。戦前のきな臭さが漂い始めるこの国の様子を垣間見るこの作品。対称的な二人の生き様を鮮やかに描き出すこの作品。自分とは異なる人物に、自分にはないものを見ることで、その生き方に魅かれてもいく。高倉健さんと坂東英二さんが演じられた映画も是非見てみたい!と思わせる、雰囲気感に溢れた作品でした。2024/10/05
KAZOO
159
向田さんの随筆はいくつか読んでいるのですが、小説は初めてです。7つの連作短編集とは言いながらひとつの長編となっています。この題名の「あ・うん」とあるように戦場仲間の友人がお互いの気持ちを忖度しあっていますが、そこに両者の家族や愛人あるいは娘・父親や双方の奥さんの関係がつながってえも言われぬ話が楽しめます。最後近くで仲たがいのようなことも起きますが最後は・・・。これが戦時中の話とは思われませんでした。2023/01/16
じいじ
113
久々の向田作品、やっぱりいいですねぇ。昭和の匂いが懐かしさを呼び戻してくれます。仄々とした家族の温もりが伝わってきます。中年働き盛りの男二人(門倉修造と水田仙吉)の友情と修造が秘かに想いを寄せる仙吉の女房への淡い恋の物語。手も握らない「好き」の一言も言えない…純情さ。まさに、肉欲を排した「精神的恋愛」である。「来世は、お前と女房が夫婦になれ!」と修造へ向けた、仙吉のひと言は可笑しくて泣かせます。笑いあり、涙あり、そして感動ありの家族小説。いまでも新鮮さを失うことなく愉しませてくれる向田邦子はスゴイです。2016/08/06
ひより
97
向田邦子さんの唯一の長編小説とのこと。 エッセイは読んだことがあったかもしれないし、この作品のタイトルは大昔から聞いたことがあったけど、読んだのは初めて。 水田と門倉の友情+プラトニックラブの物語、かな。 戦前~戦中のお話なのか。 さすがに時代は感じたけど、人物がとてもいきいきとしていて映像が浮かんでくるよう。(ドラマ・映画は観たことがないけど) この先、彼らの微妙なバランスがどうなっていくのかな。 向田さんが生きていらして、続編を書くとしたらどうしただろうか。2023/11/28