出版社内容情報
旅と歌作に壊れやすい身体を捧げた稀有の歌人・長塚節の生涯を清冽な文章で辿る、会心の鎮魂賦。歌人・清水房雄氏との往復書簡収録。
内容説明
三十七年の短い生涯を旅と作歌に捧げ、妻子をもつことなく逝った長塚節。清潔な風貌とこわれやすい身体をもつ彼は、みずから好んでうたった白埴の瓶に似ていたかもしれない。この歌人の生の輝きを、清冽な文章で辿った会心の鎮魂賦。新装版刊行にあたり、作品の細部をめぐって著者が清水房雄氏と交わした書簡の一部を掲載した。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
昭和2(1927)年、鶴岡市に生れる。山形師範学校卒。48年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。他に「白き瓶―小説長塚節」(吉川英治文学賞)など多数。平成元年、菊池寛賞受賞、平成6年に朝日賞、同年東京都文化賞受賞、平成7年、紫綬褒章受章。平成9年1月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふじさん
87
何度読んでも、読後感は「骨の折れる面白さ」を持った作品。正岡子規に和歌を学び、子規にもっとその才を愛され、根岸派の重鎮として伊藤佐千夫と並称された歌人・小説家。 37年の短い生涯を旅と作歌に全霊を傾け走り抜いた稀有の人。藤沢周平は数多くの資料を読み込み、執拗に彼の足跡を辿る執念には、圧倒される。病気と闘いながら歌人・作家として必死に生きる姿と作家自身のの闘病の経験が重なり、書かずにはいられない強い思いが伝わって来て、心が痛んだ。藤沢周平が渾身の力で描いた長塚節に捧げる会心の鎮魂歌だ。2023/06/22
nakanaka
56
歌人・長塚節の生涯を描いた作品。短歌に馴染みの無い私は当然知らない人物だったので始めはイマイチ入り込めなかったが、読んでいくうちに不器用に生きていく長塚の姿や生真面目な性格、周りを取り巻く歌人仲間を知りすっかりハマってしまいました。37年という短い生涯を終えた場面では胸にグッとくるものがありました。病気のせいで実らなかった恋、もう一人の主人公でもある伊藤左千夫の拗らせぶりなど見所が沢山ありました。惜しむらくは私自身短歌の読み方に苦手意識があること。そこさえなければ倍楽しめましたね。2023/09/30
優希
47
長塚節の一生を描いています。『土』の印象しかなかったので、歌人の側面があることを知りました。2023/02/25
ach¡
32
美文を排し主観を棄て自然を凝視してきた詩人/長塚節だからこそ、豪農の倅として見下ろすでなく、土臭い貧農の姿をありのまま「土」の中に写生できたのだと合点。全ての登場人物にモデルがいたことでその手腕が光ったともいえる。本作冒頭でさっそくモデルの親子が登場する。現実には後暗い噂で薄汚れた二人を作品内では黒い部分だけ拭い、でも潔白にしない絶妙で悲壮だけを見事に表現したと今更に得心がいき唸る。漱石が「土」の書評で長塚を褒め殺すも百姓を蛆よばわりした例えに釈然とせず直ぐに礼状が書けなかった実直の人。GODの〆方も素敵2016/05/26
キムチ
14
明治中期の関東の地に生きた農民とその生活を描いた作品の著者 長塚節を描いた作品。「土」は学生時代読んだのだが、悲しいことに今ひとつ理解できずという思い出が。「白埴の瓶こそよけれ・・」という節の歌からこの題名がつけられている。節は子規門下で左千夫らと交流し、やがて小説の力をつけていく。その後漱石に認められる。風貌、心ともに壊れやすい痩身の節が妻も子もなく37歳で人生を終えた。他の藤沢作品とはかなり異なっており、「土」と同じく、文中に入り込めず終えてしまった。