内容説明
主流を外れた職場、地方で入婿状態の息子、妻子持ちと交際中の娘。五年前に妻を亡くし、まだローンの残る建売の家で一人、主人公は自分の役目は終ったと感じている。そんなある日、娘に再婚を勧められ―。初老の勤め人の寂寥を描く「早春」。加えて時代小説二作と、作家晩年の心境をうつしだす随想、エッセイを収録。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
昭和2(1927)年、鶴岡市に生れる。山形師範学校卒。48年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。主要な作品として「白き瓶 小説長塚節」(吉川英治文学賞)など多数。平成元年、菊池寛賞受賞、平成6年に朝日賞、同年東京都文化賞受賞、平成7年、紫綬褒章受章。平成9年1月逝去
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感想・レビュー
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s-kozy
94
時代小説二編になんと現代小説一編、それとエッセイが四編という変わった構成の1冊。現代小説もさすがのクオリティで日の当たらない中高年の寂寥を描かせたら右に出る者はいないね。エッセイでも作家として創作の際に気をつけていることや司馬遼太郎との邂逅などが描かれ、非常にお得感ありの1冊。2016/10/20
レモングラス
69
ジャーナリストの近藤勝重さんが著書の中で、藤沢周平作品唯一の現代もの「早春」にふれていたので読む。退職間近、出世コースから外れている岡村は妻に先立たれ、息子は入婿状態、娘も妻子ある男性と家を出ようとしている。白蟻に喰われた補修工事の後は手入れを怠ったままのくたびれた家はまだローンが残っている。家族のための家だったが、家はお役ご免になろうとしている。行きつけのバーのママとの再婚を娘に勧められる。そのママの性格も店で見るものとは違っていることを知る。娘への想い、寂寥感の描写が素晴らしい。他、短編2篇と随想。2023/05/16
優希
56
時代小説は勿論のこと、現代ものや随想が治められていました。どの作品も味わいがあり、藤沢さんにますます魅了されます。2023/02/06
マリリン
51
短編3作と随想等。全ての作品に感じたのは雪に埋もれた南天の隙間から春の気配を感じるが如く深い心情描写が魅力的。特に気に入ったのは、捻くれた感がある斎部五郎助が菊を守る事を命じられ守りきり、心の交流と甦る剣さばきを確かめる機会がきっかけで、雪解けのように頑なな心に変化を生じさせ穏やかになってゆく様を描いた「野菊守り」。表題作は思いがけず現代小説。どことななく陰鬱さが漂うが、微細な心の動きを見事に描いた作風に感動。随想なども綴る言葉から人柄が伝わってきた。長く積んだままの作品だったけど、何とも味わい深い。 2022/01/31
AICHAN
48
図書館本。武家もの2編と現代もの1編(この現代ものが表題作品)とエッセイ。武家ものは相変わらずの安定感。現代ものは藤沢さんの作品としては初読みかも。どんなものかと少し危ぶんだが、これまた感心する出来栄え。江戸時代だろうが現代だろうが藤沢節は生きる。エッセイも面白かった。司馬さんとただ一度だけ会ったときのことなどを書いている。司馬さんの作品『ひとびとの跫音』のレビューは見事だった。2018/07/22