内容説明
コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム、披露宴会場、クリスマス、駅前、空港―。日本のどこにでもある場所を舞台に、時間を凝縮させた手法を使って、他人と共有できない個別の希望を描いた短編小説集。村上龍が三十年に及ぶ作家生活で「最高の短編を書いた」という「空港にて」の他、日本文学史に刻まれるべき全八編。
著者等紹介
村上龍[ムラカミリュウ]
1952(昭和27)年、長崎県佐世保市生まれ。武蔵野美術大学中退。大学在学中の76年に『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞、芥川賞を受賞。81年に『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞、98年に『インザ・ミソスープ』で読売文学賞、2000年に『共生虫』で谷崎潤一郎賞を受ける
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感想・レビュー
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やすらぎ
217
人生の一瞬を切り取り、鮮明な夢から覚めた時のような浮遊感を描く。現実を見る。先入観を捨てる。直視する。生き辛さの日々。何処かから自然と湧いてくるはずの気力。枯渇してしまった原因なんて分からないけど、知る必要もないけど。これとそれのどちらを選ぶのか、どちらも選びたくないけど。ありふれた日常にこそ隠された物語がある。空港、公園、コンビニ、居酒屋。集まる人の事情が渦巻く。水滴がグラスを伝い涙の洪水になっても、抱えている思いをただ伝えることさえできない。幸せも不幸せも大切なものも未だ形を知らない。光は見えるのに。2023/07/02
おしゃべりメガネ
168
久しぶりの村上龍先生の作品です。何がどうというワケではありませんが、まるでイージーリスニングを聴いてるかのような世界観にアッという間に引き込まれてしまいます。そこには村上龍にしか書けないさりげなくも、情景および人物の深い描写がしっかりと綴られています。あらゆるシチュエーションでの短編小説なので、どの作品がという思いや、印象は何とも言いがたいのですが読み終えて‘さすが’と感服させてくれます。年齢層がどうしてもある程度限られてしまう作品の質感があるかもしれませんが、少なくとも他の短編小説にはない雰囲気でした。2015/03/16
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
99
不特定多数の人々が集まり、誰もがどこかに行こうとしている場所―――空港。33歳で子持ちでバツイチで風俗で働く女は、店で馴染みになった男に背中を押され人生をリセットする旅に出ようとしていた。なのに待ち人は来ない。諦める事に慣れていたのに、もう一度夢をみようとした自分を他人事のように見つめる女。人混みの中で孤独を感じながら……。コンビニ、居酒屋、公園、駅……どこにでもある場所を舞台に、独り思索に耽る男女を描く8篇の物語。後悔、切なさ、そして希望。表題作は村上龍氏が「作家人生で最高の短篇」と語る自信作だという。2016/06/27
コットン
98
村上龍は「限りなく透明に近いブルー」しか読んだことがなく、空港での待ち時間にふと購入した短編集。「空港にて」の主人公に夢の実現へのアプローチをさり気なく促すあたりが、地についた希望へつながる終わり方で後味が良い!2014/05/23
NAO
70
コンビニ、居酒屋、公園。日本のどこにでもある場所を舞台に、これから日本を離れようとしている人が登場する短編は、留学情報誌に載せられた作品。 だが、海外を目指すとはいっても、明るくポジティブな話とは限らないのが、なんとも村上龍らしい。 閉塞感が強まっている日本において、海外に出るということは、残された数少ない希望なのかもしれない。駅前、カラオケルームの話も、暗い。最後の「空港にて」のように、だれもに希望の光が見えますように。2020/03/08