出版社内容情報
処刑を目前にした死刑囚と面接委員との心の交流を鮮やかに描いた表題作ほか、著者の多彩な小説世界のエッセンスを収録する短編集
内容説明
処刑を目前にし、己の揺れる心と必死に格闘する死刑囚と、彼を温かい眼で見守る面接委員との心の交流を鮮やかに描いた「メロンと鳩」、自殺の名所の断崖がある村で、自殺志願者の“その瞬間”を息をひそめて見守る村人の姿を子供の眼からとらえた「島の春」など、“生と死”をドラマチックに描く短篇十篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
つちのこ
47
死をテーマにした完成度が高い10篇は、どれも余韻が残る秀作。死を通して生を見つめるスタンスは、作家になる以前の著者の不幸な体験と自らの闘病による死生観からきているという。生と死は表裏一体。光と影の関係のようものではなく、境目がはっきりしない掴みどころがないもの。『メロンと鳩』で描かれた、飼っていた鳩を殺すという執行後に判明した死刑囚の苦悩は、本人にしか答えは分からない。『破魔矢』では、鼠捕りで捕まえた鼠の処分に苦悩する。小動物といえどもそこには死の尊厳があり、それを冷静に見つめる主人公の心情が鋭く迫った。2024/04/05
キムチ
45
処女作期頃~昭和半ばの情景が綴られる。短編が10、死刑囚関連・遺体引き上げにまつわる海辺の風景・自らの病など日常関連が収められている。帯にあるように筆者がライフワークとした「生と死」が縦糸になり横糸は「事実を観察して膨らませた虚構」見事に結実している。何せ、筆者を深く敬愛しているので描写一つ一つ何れをとっても、そのまま試験問題になりそうな かそやかな表現が散りばめられている。無論、行間から立ち込める臭い、匂い、声色、風の色etc。それぞれの場面でそれぞれの老若男女が感じたであろう心情も込められている。2015/09/07
金吾
36
死を見つめている短編集です。明るさはないながらも読んでいて惹き込まれます。特に「メロンと鳩」は、死刑囚の葛藤が伝わり圧巻でした。他に「島の春」「毬藻」「破魔矢」が良かったです。2025/02/01
kawa
36
短編執筆が好きと言う吉村氏。歴史小説家としてあぶらの乗っている時代執筆の短編10編。冒頭3編は刑務所受刑者と刑務ボランテイアの交流を描く作品で、受刑者の日常や心理の描写に引き込まれる。著者の住まいだった吉祥寺・井の頭公園周辺を題材とする作品もあって、吉祥寺にオープンした「吉村昭書斎」を訪ねた直後で、身近に感じられてラッキー。全体に人間の「死」を扱う作品が多く吉村マナーの独特の重い雰囲気満載。さすがに、全作を一気に読み込むとやや疲れも残るかもなので、少しづつ楽しみながら読むのがお勧め。2024/08/22
mondo
36
吉村昭の10編が綴じられた短編集。吉村昭の小説は長編の引き込まれる面白さもさることながら、ご自身が語られるように、短編を書くことが生き甲斐だと言うことを象徴しているような作品だった。いずれも、自伝的なもので、身辺の死を通して、生を考えさせるような印象を与えている。一つ一つ味わいながら読ませていただいた。2022/05/02
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